「初出演で初主演って、本当に恵まれています。プレッシャーもありましたが、お話をいただいた時は何か新しいことに挑戦したいと思っていた時期でしたし、それまで乃木坂46でいろんな経験をさせていただいてきたので、新しい世界に飛び込むことへの不安はなかったんです」
中川龍太郎監督から直々にオファーを受けたのは、衛藤さんがまだ乃木坂46に在籍していた’18年のこと。
「出演していた舞台『三人姉妹』を観に来てくださった監督から、後日、“衛藤さんの凛とした佇まいが素敵でした。ぜひご一緒したいです”というような内容のお手紙をいただいたんです。でも、映画への出演経験もなかったですし、他のメンバーのほうが原作の役のイメージに合ってるんじゃないかと心配になってしまって。それでも監督が、『衛藤さんじゃなきゃ』と言ってくださったことが本当に嬉しかったんです」
衛藤さんが演じるのは、パチンコ屋の駐車場で小さなたいやき屋を営むこよみ。そこに通う行助(ゆきすけ=仲野太賀)と少しずつ親しくなるものの、ほどなくしてこよみは交通事故に遭い、新しい記憶を短時間しかとどめておけない後遺症が残ってしまう。
「こよみは謎に包まれている女性なんです。それまでどうやって生きてきたのか、原作にもあまり詳しいことが書かれていなくて。なので監督と裏設定を考えて、こよみの年表を作ったり、擬似こよみ体験として生まれて初めてパチンコを打ったりもしました(笑)。それから、こよみはシンプルに生きている人なので、衛藤美彩からこよみになるにあたってメイクを薄くしたり、喜怒哀楽の感情を緩めることも意識しましたね」
物語の終盤、翌日になったらすべてを忘れてしまうこよみに対し、行助はこらえていた感情を爆発させる。
「そこは一番苦労したし、時間がかかったシーンです。『なんて言ったらいいの?』と言って泣いて出ていかないといけないのですが、衛藤美彩だったらそこで泣かずに怒ってしまう(笑)。でもこよみは怒らない。自分にない感情だったのですごく考えましたし、太賀君やスタッフさんに迷惑をかけている不甲斐なさで涙が出てきてしまいました」
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そんな苦労もあってか、完成した作品を観た時の感動はひとしお。
「大好きな高木正勝さんの音楽も素敵ですし、光もとても綺麗。自分が行助なら、こよみと生きていく覚悟が持てるかと考えさせられる部分もありました。世代を問わず、たくさんの方に観ていただきたいです」
『静かな雨』 事故で記憶障害を負ったこよみ(衛藤)と、そんなこよみを支える行助(仲野)。一日一日を大切に生きる二人の心情を美しい映像とサウンドで瑞々しく描く。出演/仲野太賀、衛藤美彩、萩原聖人、でんでんほか 2月7日より全国順次公開 ©2019「静かな雨」製作委員会/宮下奈都・文藝春秋
えとう・みさ 1993年1月4日生まれ、大分県出身。2019年3月に乃木坂46を卒業、以降は女優、モデル、タレントとして活躍。フォトブック『Decision』(角川春樹事務所)が大好評発売中。
※『anan』2020年2月12日号より。写真・小笠原真紀 スタイリスト・菅野 悠 ヘア&メイク・森 柳伊知 インタビュー、文・菅野綾子
(by anan編集部)