好きな気持ちを必死に隠してたのにバレちゃってました。
あどけなさが残るけれども、かなりすごい18歳である。岩井俊二監督の最新作『ラストレター』では、豪華すぎるキャストのなかで瑞々しい存在感を放ち、映画の世界観を印象づける主題歌「カエルノウタ」で透明感のある歌声を披露。地元大分でスカウトされ、この世界に飛び込んで3年ほどの森七菜さん。今、どんな景色が見えますか?
――『ラストレター』の役はオーディションで獲得したそうですが、決まったときのお気持ちは?
森:あまり手応えがなくて、落ちたかなと思っていたので、すごく嬉しかったです。でもそのときは、松たか子さん、広瀬すずさん、福山雅治さん、神木隆之介さんなどが出演されるなんて知らなかったんです。あとから出演者を聞いて、どうしようって思いました。
――一人二役というところも、普段の役作りと違ったのではないでしょうか。
森:私が演じた颯香と裕里は違う時代の人で、一緒にお芝居をする周りの人たちも違ったので、2つの作品を演じたみたいな感覚でもあるんです。だけど観る人にすんなり物語に入ってもらえるようにしたかったので、高校時代の裕里の役は松さん(現代の裕里役)の仕草や話し方などを意識しました。裕里の娘の颯香は、楽しむボルテージが常にマックスに上がっているような子なので、そういう状態を保つようにしていました。
――名だたる先輩たちと一緒にお芝居をして、いかがでしたか?
森:広瀬さんのことは前からすごく好きで、お芝居も尊敬するところがたくさんあるので、何かひとつでも盗んで帰れるものがあったらいいなと思っていたんですけど、無理でした。そこにいるだけで映画の雰囲気を支配してしまうような、圧倒的な存在感があるんです。それを目の当たりにして真似できないなと感じてからは、その存在感に埋もれないようにだけはしたいって思いました。そうしないと裕里や颯香の気持ちまで泡になってしまう気がしたから、ふたりのためにも頑張ろうって。
――広瀬さんと共演するのは、ひとつの夢だったんですか?
森:共演するというより、会うこと自体が夢でした。生きているうちに、ひと目見たい! って。だけど撮影中は、その気持ちを出さないよう必死でした。
――撮影後に、手紙で気持ちを伝えたそうですね。
森:みなさんにお手紙を書いたんですけど、広瀬さんのはラブレターでしたね。でも私の気持ちはバレていたらしいです(笑)。
――この映画は手紙がモチーフになっていますが、世代的に手紙を書くことは少ないのでは?
森:そうでもないんです。最近は一つの作品が終わるときに、キャストやスタッフの方に書いたりします。小学生のときに大阪から大分に引っ越したんですけど、大阪の友達と文通をしていました。
――であれば、映画のなかに出てくる手紙を待ちわびるシーンなどもリアルに感じられたのですね。
森:文通してた子から手紙が届いてるかなって、学校帰りにいつも家のポストを確認してました。「まだ届いてないんだけど」って結局電話しちゃうんですけど(笑)。
――今作で歌手デビューもしていますが、歌に挑戦したい気持ちは前からあったのでしょうか。
森:私にそういう機会を与えてくれる人がまさかいるとは思っていませんでした。最初、小林武史さんのスタジオで何も説明されないまま、「返事はいらない」(荒井由実)を歌いました。そしたら次に「カエルノウタ」を渡されたのでまた歌ってみたら、「これ、主題歌だから」と言われて、マジ!? って驚きました(笑)。知らないまま進んだおかげで変に意識することなく、穏やかに歌えたのかもしれません。
――歌詞も印象的ですし、声と曲の雰囲気がとても合っています。
森:「つぶて」とか聞き慣れない言葉が出てくるんですよね。だからこの歌詞に隠されているのは何だろうと思って、岩井さんに質問してみたんです。そしたらいろんな意味を送ってきてくださって。登場人物それぞれの、映画のなかでは直接的に描かれていない大切な人に対する思いが込められていることを知って、この曲が最後に流れるっていうことは、私は結構大事な使命を託されたのだなと思いました。映画自体はすでに撮り終わっていましたが、もう一本番外編を撮るような気持ちで歌いました。
――そういうときは裕里や颯香、あるいは森さん自身の気持ちで歌うのでしょうか。
森:登場人物のそれぞれの思いを一番フラットに見ることができるのは私しかいないと思って、歌詞ごとにいろんな人に気持ちを入れ替えて歌っています。
――『天気の子』での声優もそうですが、今回は歌に挑戦されて、年明けにはラジオのパーソナリティも務めたそうで、声のお仕事が続いていますね。
森:自分でも驚いています。もともと私の声は、低くて好きじゃなかったから。最近はナレーションなどもやらせていただくんですけど、声だけで表現するのはカメラの前でお芝居するのとは違う、何ともいえない楽しさがあります。VTRを俯瞰して、そこに映っている人などに寄り添いながら話す感じが楽しいのだと思います。
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公開中の『ラストレター』では、いとこを思いやる天真爛漫な颯香と、姉に思いを寄せる男性を密かに慕う裕里を演じている。同作の主題歌「カエルノウタ」は作詞を岩井俊二さん、作曲と編曲を小林武史さんが担当。シングルのカップリングは、小泉今日子さんの「あなたに会えてよかった」、荒井由実さんの「返事はいらない」のカバーを収録。
もり・なな 2001年8月31日生まれ、大分県出身。‘16年、行定勲監督のWebCMでデビュー。‘18年『やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる』『獣になれない私たち』、‘19年『3年A組-今から皆さんは、人質です-』などのドラマに出演。新海誠監督の映画『天気の子』でヒロインに抜擢。岩井俊二監督の映画『ラストレター』で歌手デビュー。
シャツ¥30,000(Maison MIHARA YASUHIRO TEL:03・5770・3291) その他はスタイリスト私物
※『anan』2020年2月5日号より。写真・岩澤高雄(The VOICE) スタイリスト・申谷弘美 ヘア&メイク・佐藤 寛(KOHL) インタビュー、文・兵藤育子
(by anan編集部)