
漫画『みちかとまり』作者、田島列島さんにインタビュー。
女の側から見た民俗学と山に対する畏怖の感覚
『水は海に向かって流れる』などで知られる、田島列島さんの最新作『みちかとまり』が完結した。今作も大きな括りでは日常ドラマといえるかもしれないが、その日常が容易く反転してしまう、不思議な物語だ。
「描きたいものが浮かばないから、とっかかりとして姪っ子が読めるようなお姫様の話がいいかなと、まず思って。世界中のプリンセスの物語の多くは、シャーマニズムが絡んでいるっていうのを本で読んで、それをやってみるかって感じでした」
8歳の夏、まりが竹やぶに落ちていた少女みちかを発見する冒頭は、『竹取物語』を彷彿させる。竹やぶから生えてきたみちかは、まだ人間でも神様でもない存在で、どちらにするかは最初の発見者であるまりが決めなければならないらしい。常識が通じないところのあるみちかは、まりの同級生でいじめっ子の石崎の大事なものを、とある残虐な手段で奪ってしまう。別人と化した石崎を見て責任を感じたまりは、それを取り戻すため、みちかとともに“あの世っぽいところ”へ足を踏み入れる。
「いじめっ子をひどい目に遭わせてやりたい願望を形にしたのですが、その子もつらい思いをしていたのは私の経験上の話でもあって、ちゃんとそこまで描かなきゃ、と。正直でなければいけないっていうまりの性格も、私の子どもの頃と一緒です」

Ⓒ 田島列島/講談社
物語は数年の時をまたいで、みちかが人間と神様のどちらになるかを描いていくのだが、山が身近な環境で育った田島さんは「いつか山の話を描かなければ」と思っていたそう。
「日本人は大昔から山を神様とみなしてきたことを、現代人の私たちは忘れてしまっているけれど、脳のどこかに残っているような気もして。たとえば信仰心は信じるか信じないかの二択だけど、山の場合はそれすら選べないというか。自然に怖いし気持ち悪いし、首根っこは最初から掴まれてて、崇めるしかない敵わなさを感じたりとか。山に対する自分のそういう感覚を描いてみました」
作者自身も話がどう転がっていくのか、最後の最後までわからなかったというドライブ感。あちらとこちらを行き来するふたりは、いつの間にか離ればなれになって、記憶を失ったり取り戻したり。まだ何者でもないからなせる、軽やかさなのか。田島さんおなじみのユーモアをちりばめながら、少女たちは少しずつ子どもであることを手放していく。
「女の側から見た民俗学みたいなことを描けて、自分がずっとやりたかったことがめっちゃできました」
モノわかりのいい大人として現代社会に順応した私たちが、いつの間にか忘れてしまったことを優しく、ときにエグみとともに思い出させてくれる、切なくて鮮烈な読後感だ。
Profile
田島列島
たじま・れっとう 2008年に「ごあいさつ」でデビュー。『子供はわかってあげない』『水は海に向かって流れる』は共に実写映画化も。
『みちかとまり』
竹やぶで出会った、みちかとまり。死んだ先祖たちと出会ったり、イケメン(?)王子が現れたり。反転&更新していく世界を巡る、摩訶不思議アドベンチャー。
講談社 792円
anan 2506号(2026年7月29日発売)より































