特別ではないけれどかっこいい…! 映画監督・大九明子おすすめの“女バディ”作品

エンタメ
2024.08.24
男のバディものも素敵だけれど、女の2人組が活躍する物語を、もっともっと楽しみたい。実は今、そんな作品のニーズが高まっている…という噂が、SNSを中心ににわかに拡散中。映画監督・大九明子さんが“女バディもの”について語ります。
女バディ

痛快そうで、おもしろそう。バディものという言葉には、そんな雰囲気を感じると言うのは、映画監督の大九明子さん。女バディものと聞いて真っ先に浮かぶのは、ドライブ旅行に出た先の店の駐車場で、レイプされそうになったテルマと、彼女をレイプしようとした男を撃ち殺したルイーズという、中年女性2人の逃避行物語である映画『テルマ&ルイーズ』。30年以上前に作られた、女バディ映画の金字塔的作品だ。

「二人が仲良くいろんなことに立ち向かっていく。その姿にワクワクしたりドキドキしたり。そんなところが楽しい映画です」

大九さんがこの作品に惹かれるポイントがもう一つ。それは主人公のバディ二人が、特別な存在ではない、ごく普通の女性であるということ。

「どんな作品でも主人公は主体的な存在でなければ物語は成立しないわけで、それはバディものでも同じこと。私はどんなドラマでも映画でも、女性の描かれ方がとても気になってしまうんです。特に、日本の作品に出てくる中年女性は、○○さんの妻であったり、○○さんの母親といった、“役割としての存在”として描かれることがほとんどで、そうでない場合は医者や弁護士、刑事といった職業のスーパーウーマンのいずれかのパターンが本当に多い。だからこそ、特別な存在ではないただの主婦、しかもそれがバディで主人公、というところが、とても新鮮だったんだと思います」

自身が女バディものの映画を撮るとしたら…。特別ではないけれどかっこいい女性2人が活躍する、痛快な作品を作りたい。

「バディという言葉が持つ、痛快さ、かっこよさを、女性に任せてほしいんです。まずはそういったかっこいい女性像というのを、映画の中で描かせてほしい。’66年のチェコの映画で『ひなぎく』という作品があり、奔放な姉妹が世の中を振り回す…といったある種のバディムービーなんですね。私も昔はおしゃれなアート映画だと思って観ていたんですが、少し前に観返したときに、なんだかちょっと不愉快に感じたんです。それは女の子を必要以上に露悪的でセクシュアルに描いていたから。私がそういったことに気づいたように、“既存の女性の描かれ方”に違和感を覚える女性が少しずつ増えているような気がします」

その兆しは、小さいけれど、例えば、何者でもない市井の女性を主人公にした映画を撮るチャンスが巡ってきたり…といったことからも感じられる。

「私が好きな、フランスのドラマ『アストリッドとラファエル 文書係の事件録』というバディものがあります。これは犯罪資料局で働く自閉症のアストリッドと、家族のことで苦悩を抱える警視のラファエルが、バディとして犯罪捜査をしていく、というドラマシリーズで、なんとシーズン4まで続くほど人気を博していて。決してスーパーウーマンではなく、ある意味では社会的な弱さを持った二人を、それぞれの人生の背景や生活をしっかり描きながら、バディ物語として描く。私自身、車椅子の母とダウン症の弟がいる女性が主人公の家族のドラマを撮ったということもあり、そういった事情を抱える登場人物の女性バディものを、当事者である俳優と一緒に作ってみたいです」

どちらかというとこれまでは、孤独な主人公を描くことが多かったという大九さん。

「だからこそ、“二人”という関係に夢や憧れがあるんです。素敵な同性のバディがいる状態って、私にとってはとても輝いて見える。なので実は作品の中に、主人公にそっと寄り添ったり、遠くから見守る、そんな立ち位置の女友達を祈るような気持ちで配置しがちでした。もしかしたらそれも、ある種のバディなのかもな…と、ちょっと今思いました」

大九さんのおすすめ

『アストリッドとラファエル 文書係の事件録』
頭脳派と行動派の仏発犯罪ミステリー。

女バディ

パリ警視庁の警視ラファエルは、資料請求をしたことで犯罪資料局で働くアストリッドと出会う。自閉症で対人関係に困難を抱えていたアストリッドだが、推理には資質が。正反対の性格の二人が、バディとしてさまざまな事件の捜査にあたるうちに関係が深まり、親友になっていく。「スーパーウーマンではない女性同士のバディもの。こういった作品が日本でも作れたら…」(大九さん)
Amazon Prime Video「シネフィルWOWOW プラス」でシーズン1~4(字・吹)を見放題配信中 ©FRANCE TELEVISIONS‐JLA PROD UCTIONS‐Be‐FILMS‐RTBF(Television belge)‐2023

『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』
2人の記者が、ハリウッドの巨悪に迫る。

女バディ

#MeToo運動が広がるきっかけになった、ハリウッドの映画プロデューサーによる性暴力報道を描く、実話がベースの映画。長きにわたって続いていた性暴力を追及したのは、2人の女性記者。「バディ作品の持つ“戦う”というイメージと、悪が裁かれるという痛快さの両方を兼ね備えた作品。女の人が活躍する姿を見るだけで、嬉しくなります」(大九さん)
DVD¥3,980 販売・発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント ©2022 UNIVERSAL STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.

おおく・あきこ 神奈川県出身。2007年に『恋するマドリ』で商業映画監督デビュー。代表作に『勝手にふるえてろ』『私をくいとめて』など。NHK総合ほかにて『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』が放送中。

※『anan』2024年8月28日号より。イラスト・加藤羽入

(by anan編集部)

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