世界のメインストリームで権利を訴える新時代のポップスター。
「1stのツアーが回れなかったので成功の現実味が薄く、新しい出会いや体験もなかったのでインスピレーションが湧かず…。“何を書けばいいのか分からない”状態でした」
だが、この半強制的な環境を追い風に、「1stは作品を通じて自分と向き合い、自身の理解を深めましたが、2ndでは人生観や友人とその家族などもう少し広い視点を意識した」と新たなアプローチの楽曲制作に挑戦。その代表作がリードシングル「This Hell」だ。
「カミングアウトはキリスト教の禁戒に触れるので、クィアの人々の多くが『あなたは地獄に堕ちる』と説かれた経験を持っている。でも、もし本当に地獄に堕ちるとしても、愛を見いだした者同士で向かうのであればポジティブなことだと思えるように、踊れるキャッチーなポップソングに昇華しました」
一方、アコースティックギターの音色をバックに歌声を響かせる「Send My Love To John」は、ゲイの友人の母親目線で歌詞を綴っている。
「友人の母親はホモフォビア(同性愛嫌悪)でゲイを認めていなかったんですが、ある日、電話の最後に『ジョン(友人の彼氏)に“I love you”って伝えてね』と言って電話を切ったんです。この何気ない一言は、彼を肯定した初めての瞬間で、同時に今までの態度に対する詫びの気持ちも垣間見えた。子どもにとって両親に認められないことが一番ツラく、多くのクィアの友人は両親からの理解を得ることができず人生を過ごしています。だから、私が楽曲で彼らの求める言葉を与えられたらと思い、母親の立場になってこの曲の歌詞を書いたんです」
前作からエモーショナルな要素が濃くなった今回のアルバムを経て、彼女のサウンドジャーニーはどこに向かうのか。
「いつもボサノバのようなリラックスできるような作品を作りたいと思いつつ、最終的にそうはならないんですよ(笑)。でも、言葉や機会を求めている人たちの心に深く届く楽曲を作り続けたいですね」
2ndアルバム『Hold The Girl』。表題曲「Hold The Girl」や、LGBTQ+コミュニティに捧げたリード・シングル「This Hell」など日本盤ボーナストラック1曲を含む全14曲を収録。¥2,750(ダーティ・ヒット)
リナ・サワヤマ 1990年8月16日、新潟県生まれ。5歳でロンドンに移住し、13歳から音楽制作を開始。現在も拠点はロンドン。ケンブリッジ大学卒業後にアーティスト活動を本格化し、2017年にEP『RINA』でインディーデビュー。
※『anan』2022年9月21日号より。写真・岩澤高雄(The VOICE) スタイリスト・Jordan Kelsey スタイリストアシスタント・MAO MIYAKOSHI ヘア・TOMI ROPPONGI メイク・Rie Shiraishi 取材、文・小川 陸
(by anan編集部)