制作のプロセスは正反対!? 蓮沼執太×塩塚モエカが明かす、癒しの音楽の作り方

2022.9.8
これまでに何度か共演し、美しいハーモニーを奏でてきた、蓮沼執太さんと塩塚モエカさん。制作へのこだわりや、お互いの音について感じることを語ってもらった。

癒しの音を奏でるミュージシャンが考えていること。

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――ミュージシャンという職業柄、常に音楽がそばにある生活を送っているお二人ですが、オフの時に聴く曲はどのように選んでいるのでしょうか。

塩塚モエカ:私は気分に合わせています。わりと幅広いジャンルが好きなので、テンションを上げたい時はノリノリのポップスを聴くし、眠る前には瞑想用の音楽でリラックスすることも。

蓮沼執太:僕は散歩中に音楽を聴くのが好きなのですが、自然と歩くテンポに合わせてBPM(1分間の拍数)100~110くらいのテクノを再生することが多いです。120だと速すぎて足が追いつかないから(笑)。

塩塚:120だと急ぎ足になっちゃいますね(笑)。

蓮沼:部屋ではレコードを聴くので、ジャケットを選んで盤を取り出して針を落として…っていう動作がある分、スマホやPCで再生するよりその時の感情がより強く反映されているように感じます。

――なるほど。心を癒すために音楽を聴くことも?

蓮沼:僕は仕事で疲れると逆に音楽から離れたくなってしまうこともあって…。街中で鳴っている日常の音や、友達との会話で心が休まるタイプなんです。

塩塚:私が思う癒しの音は、アタックが弱くて、リリース(音の消え際)がモワ~ッて長いもの。

蓮沼:音を波形にすると、徐々に波が大きくなっていく曲ですね。

塩塚:そういう音楽を聴いていると気持ちがスッと落ち着いて集中できるんです。最近お気に入りの一枚は、オーストラリアのオーレン・アンバーチというミュージシャンの『Grapes from the Estate』。あまりにも心地よくてつい寝ちゃいます。

蓮沼:木々が生い茂ったジャケット写真にも癒されるよね。

――蓮沼執太フィルに塩塚さんを迎えた「HOLIDAY」は、声のハーモニーがとても美しいと感じました。これはどのように制作していったのでしょうか?

蓮沼:もともと僕が羊文学のファンでもあったので、塩塚さんのボーカルが伸び伸びと活きる曲にしたいと思って作りました。その時に初めてご一緒したから、初めましてならではの新鮮さも出せたらいいなと。

塩塚:羊文学で歌う時よりリズム感が複雑で難しく、実はレコーディング中も何度か頭が混乱してしまって…。フィルのグルーヴを掴んで、みんなの音の一部になれるようにと心がけて歌いました。

――やはり、他のアーティストの楽曲に客演で参加する時は気持ちや歌い方も変わるのでしょうか?

塩塚:まったく違うと言ってしまってもいいかもしれません。自分のバンドの場合はそこで鳴っている音や声の響き方を熟知しているけれど、他はそういうわけにいかないので。自分以外の人が作詞したものだと、感情の入れ方も変わりますね。

――曲づくりに関して、お互いに凄いと感じるのはどんな部分でしょう?

塩塚:えー、もう全部ですよ! どうやったらこんな曲を作れるんだろう? っていつも不思議に思っています。

蓮沼:僕もそう思いますよ。塩塚さんは自分で歌詞を考えて、それが自分の口から音楽となって出てくるわけじゃないですか。そういう最小限の範囲で曲を作るのは、まさに人間だからこそできることだし、僕にはなかなかできないなと感じます。すごくピュアで素晴らしいなって。

塩塚:ピュアだなんて(笑)。初めて言われました。

蓮沼:僕の場合は、メロディが先にあってそこに言葉を乗せていく方法だから、音と言葉がけっこう分かれて存在しているんです。音楽の構造についても考えすぎてしまうし。

塩塚:私も構造的な曲づくりへの憧れはあるんです! でも、そこまで手に負えないから、自分の中で最小限でやるしかなくて。だからこそ、フィルに参加した時はすごく新鮮で楽しかったです。あと、蓮沼さんに羊文学の曲をアレンジしてもらった時も、自分たちの曲がこんなふうになるんだっていう発見がありました。

蓮沼:あれは元の曲のポテンシャルが素晴らしかったから。

塩塚:しかも爆速で仕上げてくださって(笑)。本当にありがとうございました。

――お二人の音楽には共通して、聴いた人の心にポッと灯りをともすような魅力があると感じるのですが、制作のプロセスは正反対なのですね! 曲づくりにおいて、最も意識しているところは何でしょうか?

蓮沼:使い慣れていることをあえてせず、毎回変えていくことです。例えばコードの進行など、こうしたら万人が聴きやすいっていう方法もわかるのですが、そっちの道を選ばないように心がけています。

塩塚:わー、ストイック!

蓮沼:そうすることで、毎回違う思考とプロセスで曲づくりができるんです。フィルの時は、基本的に僕が書いた楽譜をみんなに渡しているのですが、ライブを重ねていく中で曲が変化していくことも。メンバーの意見を取り入れるというのも意識しています。

塩塚:実は私、最近までコードをよくわかってなくて…。それが何コードなのかもわからずに、“この響き、なんかいい感じ!”って曲を作っていました。

蓮沼:まさにピュア(笑)。

塩塚:最近は少し勉強したので、これの次にこれが来るといい、というのがわかってきたんです。でも、そういう方法に頼り切りになってしまうのは自分らしくないと思ったので、わかってないふりをして作っていますね。

蓮沼:その方がいいと思います。

塩塚:あと、できるだけ少ない音で曲を作るのが好きだということに最近気づきました。すべてを重ねて埋めようとするのではなく、隙間があるのがいいなって。

蓮沼:それは僕もわかります。余白が残されていた方が、聴いている人もグッと曲に入り込めるんじゃないかな。まったく隙間のない曲より、音楽の世界に浸りやすい気がします。

塩塚:たしかに! 私が長い音を聴いて心が落ち着くのも、そういうことなのかもしれませんね。無意識のうちに、癒しにつながる音楽を作っていたのかな(笑)。

はすぬま・しゅうた 音楽家、作曲家。蓮沼執太フィルを主宰するほか、映画やCM楽曲、音楽プロデュースなども手がける。12月23日に恵比寿ザ・ガーデンホールにて蓮沼執太フィルのライブが開催予定。

しおつか・もえか 2012年に羊文学を結成し、’20年にメジャーデビュー。国内のフェスにも多数出演。初の全国ツアー最終公演を映像化したBlu‐ray&DVDと最新アルバム『our hope』のアナログ盤が11月に発売予定。

※『anan』2022年9月14日号より。写真・嶌原裕矢 ヘア&メイク・kika 取材、文・大場桃果

(by anan編集部)