伊藤沙莉「絶対にできないってビクビクしていた」 ダークファンタジー舞台に挑戦

2021.6.14
「今朝、『大豆田とわ子と三人の元夫』を録ってきたんですけれど、“楽しい~っ!”って思いながらやっていました。ナレーションなので、お芝居とは少しベクトルは違うけれど、誰かの代弁者になったり、自分以外の人生を生きたりできるって、すごくツイているなと思います」 弾んだ声に実感がこもる。それは観る側も同じ。これに限らず、伊藤沙莉さんが出演すると(たとえ声のみでも!)、作品が2割増し、3割増しに面白く感じるのはなぜだろう。

蓬莱さんから生まれた言葉を、自分の口から出せることが嬉しい。

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「作品や役にめちゃくちゃ恵まれているんです。それに、直感って意外に合ってるんだなと思います。面白そうだなって飛び込んだ作品が、自分的に楽しかったと思えるのは、ちょっとした快感ではあります」

そんな伊藤さんの“直感”を大きく刺激するのが、人と人とが関わることで起きる軋轢や機微を、リアルに描く蓬莱竜太さんによる舞台『首切り王子と愚かな女』だ。

「蓬莱さんの作品を何作か拝見していますが、人にはあえて言わない些細なことだけれど、自分にとってはたいしたことなんだよね、というようなところを丁寧に描いてくださっていて、観ていて救われる気持ちになることが多いんです。すっきりと終わる話ばかりじゃなく、現実を突きつける展開も多いけれど、視点に温かみを感じますし、些細なところを掬い上げること自体が優しいですよね。どんなにカラッとしている人にも何かしら背負っているものはあるし、何も考えていないわけじゃない。そういう想像力を持てないのって、すごく怖いことだと思うんです。それを蓬莱さんの作品はちゃんと教えてくれるから好きですし、そんな蓬莱さんから生まれた言葉を自分の口から出せることが嬉しいです」

タイトルの“愚かな女”が、伊藤さんの役。“首切り王子”と呼ばれる傍若無人の王子が、死を恐れない彼女と出会い、召使いにするところから始まるダークファンタジーだ。

「ファンタジーに自分があまり触れてこなかったので、絶対にできないってビクビクしていたんです。でも、描かれているのは、人間味のある人たちのリアルな物語で。むしろ、とある国のとある時代の話になっているぶん、制限がなく広い視野で見せられるのかなという印象です。現代劇だったらヒリヒリするようなこともファンタジーにすることで、考えたくないようなことも自分に投影して考えられたり、響いたりするようになっているんだなと感じました」

舞台は「観るのが好きで、憧れでもある」が、同時に怖さもあるという。ピンチに強そうなイメージだけに意外です、と伝えると、「舞台に限らず、新しい作品や役をいただくたびに“できない”って思っています」と思いもよらない返答が。

「『大豆田~』のナレーションにある『できるかな、いや絶対に無理。いつもそう思う。…できた』って、ほんとそんな感じです。これまでの現場は、本当にまぐれが積み重なっただけで(笑)。でも舞台は、やり直しがきかない怖さのぶん、携わる方々が作品に対して一回一回に命をかけているのが伝わって、そこが好きでもあるんです。観ていても演じていても作品自体が呼吸をしているのが感じられて。そんな場で、作品や役と丁寧に向き合えることは贅沢ですし、恵まれているなと思います」

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『首切り王子と愚かな女』 第二王子・トル(井上)は、国の反乱分子鎮圧のために容赦なく処罰することで首切り王子との異名をとっていた。彼は、処刑場で死を恐れないヴィリ(伊藤)と出会い、興味を持つが…。6月15日(火)~7月4日(日) 渋谷・PARCO劇場 作・演出/蓬莱竜太 出演/井上芳雄、伊藤沙莉、高橋努、入山法子、太田緑ロランス、石田佳央、和田琢磨、若村麻由美ほか 全席指定1万2000円ほか サンライズプロモーション東京 TEL:0570・00・3337(月~金曜12:00~15:00)https://stage.parco.jp/ 大阪、広島、福岡公演あり。

いとう・さいり 千葉県出身。2003年のデビュー以降、数々の話題作に出演。’21年に第63回ブルーリボン賞助演女優賞、第45回エランドール賞新人賞を受賞。現在、ドラマ『いいね!光源氏くん し~ずん2』(NHK総合)に出演中。Netflix『全裸監督2』が6月24日から配信。6月10日にフォトエッセイ『【さり】ではなく【さいり】です。』を出版。

※『anan』2021年6月16日号より。写真・小笠原真紀 スタイリスト・吉田あかね ヘア&メイク・AIKO インタビュー、文・望月リサ

(by anan編集部)