タッチは癒し系、物語は非凡。一度読んだらクセになる無二の世界。
2015年に出版されたクリハラさんの『冬のUFO・夏の怪獣』が、このたび新版になって登場。
表題作のひとつ「冬のUFO」は、親子3人で宇宙博物館に出かける話だ。収蔵されているレトロさが漂う宇宙船や建物。よく見かける、ふつうの親子の様子や会話。そんな光景に、オトナ女子の心をくすぐる愛らしさとユーモアがある。
「作中で描いたように、親が何かを見てふいに笑いだしたとき、子どもは意味がわからなくてしつこく『なぜ?』と聞いたりしますね。でも大人のほうは、子どもに説明してもどうせわからないと放っておく。よくある場面だと思うんです。『こんなことを考えたことがあるかも』『言われてみればそうだ』など、ひとつひとつでは形にならなそうな、小さな“あるある”を掬い上げたいなと」
子どもの頃からいままでの、自身が見たり経験したりした断片。すぐに消えていってしまいそうな感情。名前のない感覚。それらを集めて描いているという。
基本的に読み切りスタイルだが、同じ登場人物が活躍する「ひろしとみどり」や「私立探偵大町駿作の事件簿以外」などシリーズになっているものもある。読んでいるうちに、各編にちりばめられた小ネタのつながりや人物相関図が見えてきて、それを発見するのも楽しみのひとつだ。
ストーリーの軸は、うそばなし。
「うそとわかりきってしゃべっている、どうでもいいうそが好きなんです。『こうだったら面白いよね』といううそに、さらに他愛のないうそをかぶせていくとか。昔、同人用語に“やおい”というのがあって、いまはBL(ボーイズラブ。もとは男性同士の恋愛を描いたマンガや小説を指す)という言葉に変わりましたが、その語源である“ヤマなし、オチなし、意味なし”の世界が僕自身は理想。それで面白いなら最高という気持ちなんです」
色使いの独特のセンスも、クリハラさんの画の大きな魅力だ。
「完璧な湿度や心地いい風がシャツの中を通り過ぎる夏の空気感みたいなのは描きたいことのひとつです。ひなびた場所と海が好きで、自分なりのユートピアを描きたい欲もあるので、それをひろしとみどりの旅先に組み込んだりしています(笑)」
未読の人は、書店へ走れ!
『冬のUFO・夏の怪獣【新版】』 巻頭、巻末漫画を含む27編を所収。収録作「ひろしとみどり」のスピンオフ作品「日曜日のはじめちゃん」が『母の友』(福音館書店)で連載中。ナナロク社 1200円 ©TAKASHI KURIHARA
クリハラタカシ マンガ、イラスト、アニメーションなどを制作。著書に『ツノ病』(青林工藝舎)、『ゲナポッポ』(白泉社)など。くりはらたかし名義で、絵本を手がける。
※『anan』2021年2月24日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子
(by anan編集部)