「夜は、恋するためにつくられ…」 当代きってのモテ男が読んだ詩とは?

2021.2.6
人間の内側から発せられ、他者と共鳴していく詩は、世の中に生まれたときから、官能とは切っても切り離せないものだったはず。古今東西の詩における官能とその味わい方を、近代詩伝道師のPippoさんに指南していただきました。

古今東西の詩で味わう、官能。

詩が本来持っている特有の性質には、官能と密接に結びつくものがある。

「もともと詩は直情的に表現するというより、比喩などを用いて思いを述べていくもの。ですから、うちに秘めた感情を歌いやすい文芸表現のひとつだと思います」(Pippoさん)

ストレートな表現ではないぶん、想像を巡らせる余白が読み手に与えられていることが、最大の特徴といえる。

「想像力だけでなく、知識や感受性などを駆使して、読み手が掴み取っていくものともいえます。それだけいろんな読み解き方があるので、5人の読み手がいたら、おそらく5通りの感じ方が存在することになり、それが詩の豊かさにつながっていく。真剣に向き合うと、これほど面白いテキストはないですよ」

退廃的な美に耽溺する。

既成のルールや常識にとらわれず、欲望に忠実に、いつ死んでも後悔しない人生を送ること。誰もが羨みながらも恐れる生き様を体現した人が、たどり着いた境地とは。「恋に生きた貴族詩人バイロン。破壊的な衝動をうちに秘め、生きることを楽しんだ村山槐多。非常にいびつで、不思議な魅力のある詩人たちの背景を知ると、より深みが増してきます」

Poem1

夜は、恋するためにつくられ
そしてたちまち昼はかえってくるが
しかし、われらは、さまようのをやめよう
月光にいざなわれてさまようのを。

「いまは、さまようのをやめよう」より

poem

恋多き男が放蕩の果てに漏らした哀愁。
19世紀前半に活躍したイギリスのスター詩人バイロンは、当代きってのモテ男。女性関係のもつれでイギリスを去り、ベネチアに渡って読んだのがこちらの詩。

「女性たちと情欲の日々にふけり、さまよい続けた人間の内側から、ふと漏れ出たような実感に満ちた詩です。『夜は、恋するためにつくられ』というロマンティックな表現のなかに、恋に身をやつし続け、孤独のなかに死んでいった男の哀しみと官能が感じられます」

『バイロン詩集』阿部知二訳 520円(新潮文庫)

Poem2

死と私は遊ぶ樣になつた
靑ざめつ息はづませつ伏しまろびつつ
死と日もすがら遊びくるふ
美しい天の下に

私のおもちやは肺臟だ
私が大事にして居ると
死がそれをとり上げた
なかなかかへしてくれない

やつとかへしてくれたが
すつかりさけてぽたぽたと血が滴たる
憎らしい意地惡な死の仕業

それでもまだ死と私はあそぶ
私のおもちやを彼はまたとらうとする
憎らしいが仲よしの死が

「死の遊び」より 

poem

自らの死とさえ戯れた早世の詩人の遊び心。
22年間の短い人生を駆け抜け、数多くの作品を遺した村山槐多。

「画家でもある彼は、ほとばしるようなガランス(茜色)をふんだんに使った絵で知られています」

亡くなる直前に紡いだ言葉からも、特異な生き様が見えてくる。

「死を忌むべきもの、怖いものとは捉えず、まるで友人のようにえがいている。エネルギーの塊のような人間に死期が迫ってきたときの心のあり方、命を燃やし尽くそうとする様が鮮烈です」

『槐多の歌へる 村山槐多詩文集』村山槐多 酒井忠康編 1600円(講談社文芸文庫)

Pippoさん ピッポ 近代詩伝道師、朗読家、著述家。2009年より「ポエトリーカフェ」を月例にて開催。著書にエッセイ『心に太陽を くちびるに詩を』、インタビュー集『一篇の詩に出会った話』。

※『anan』2021年2月10日号より。写真・中島慶子 文・兵藤育子

(by anan編集部)

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