朝井リョウが描いた“平成の生きづらさ” 伊坂幸太郎らの“螺旋プロジェクト”で

エンタメ
2019.03.29
朝井リョウさん、伊坂幸太郎さんら8組9人の作家による競作企画「螺旋プロジェクト」。古代から未来にわたるまで、各時代を各作家が受け持ち、“対立”をテーマに長編を執筆。朝井さんが受け持ったのは平成のパートだ。
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もともとは伊坂さんが編集者と雑談したなかで生まれた企画とのことで、

「依頼をいただいた時、私からすると文壇高校の伊坂先輩に呼んでいただいたという感覚で、それはもう応えないわけにはいきませんでした」

植物状態で入院する青年、智也と彼を見舞う雄介。二人は幼馴染みだ。しかし幼少の頃から周囲は違和感を抱いていた。自己顕示欲が強く“やりがい”を見つけては実行する雄介と、彼を冷静な目で見つめる控えめな智也。正反対の二人がなぜ友人同士なのか―。

「最初、平成を舞台に対立を描くとなっても、何も浮かばなかったんです。連載開始の前に何度か全員で集まって話し合ったんですけれど、僕だけ何も意見が言えなくて。自分を無価値で、無意味に感じました」

もともと日常生活でも、原稿が書けない日は美味しいものを食べることができない、などと自分を責めがちな朝井さん。と同時に、頭をよぎることもあった。

「僕にとって印象に残る平成の事件というと、秋葉原通り魔事件や、『黒子のバスケ』脅迫事件。犯人の供述書や関連書を読んで感じたのは、どちらも“社会にとって自分は無価値である”という思いから起こした事件だということだったんです」

犯人らも自分も、どうして自分を無価値と考えてしまうのか。

「平成って、個人間の対立や争いごとをなくしていこうという試みが強かったと思うんです。学校でテストの順位を張り出さず、運動会で順位を決めず、ナンバーワンではなく自分らしいオンリーワンを目指そうという。でも自分らしさを探そうとすると、どうしても私は自分と人を比べることがやめられなかった。自分の価値を測るために“この部分はあいつより下だ”などと自分で自分をジャッジするしかなかった。そうすると小さい自己否定がちょっとずつ積もっていく。それは内側から腐っていく感覚だなと思ったんです」

その痛みを、二人の青年を軸に少しずつ描き出したのが本作だ。

「条件だけ抽出すれば、二人は立派な大学を出ているし貧困層でもなく友人もいる。何に悩んでいるのか分からない人も多いと思う。それは今の社会全体にも言えること。内側から腐る痛みを書くことによって、逆説的に平成で対立を書くことができるのではないかと思いました」

自分は雄介タイプ、と朝井さん。

「対立軸が奪われ、自分らしさを探して“自分地獄”に陥り、自滅していく。私のこれまでの小説でもそういうことが書かれたものがありますが、今回はその集大成みたいなもの」

後半は何度も書き直したという。

「大変でしたが、でも連載中、伊坂さんが毎回すごく褒めてくださったのが嬉しかったです(笑)」

各作家の作品に共通するモチーフや共通するシーンも盛り込まれているという。本作はもちろん、今後刊行予定の他の作家の作品も楽しみ。

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あさい・りょう 1989年生まれ。2009年『桐島、部活やめるってよ』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。'13年『何者』で直木賞受賞。著作に『世にも奇妙な君物語』など。

『死にがいを求めて生きているの』 伊坂幸太郎、天野純希、薬丸岳、乾ルカ、澤田瞳子、大森兄弟、吉田篤弘による「螺旋プロジェクト」の単行本第1弾。平成の暗部を浮き彫りにする。中央公論新社 1600円

※『anan』2019年4月3日号より。写真・土佐麻理子(朝井さん) 中島慶子(本) インタビュー、文・瀧井朝世

(by anan編集部)

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