才能がないことに早いうちに気づけたことが、自分の強さだと思います。
いまにも雨が降りだしそうな曇天。撮影のため、通りから一本入った細い路地裏に矢本悠馬さんを連れ出した。てくてく歩きながら、スタッフと軽口を交わしていたが、カメラマンから「ちょっとクールな表情で」と声がかかると急に照れだして、困り顔で「そういうの、あんまやったことないんで…」と苦笑い。けっしてイケメンとはいえないけれど(失礼!)、何気ないその瞬間の表情や仕草が妙に愛らしい。映画やドラマに出ている矢本さんに思わず惹きつけられてしまうのは、もしかしたらそのせいなのかもしれない。
――連続テレビ小説『半分、青い。』のブッチャー役をはじめ、最近、活躍の幅が広がっています。
矢本:この間、バイプレイヤーっていう言葉をネットで調べたんですけれど、まさに僕のことだな、と思いました(笑)。
――主役願望はありますか?
矢本:やらせてもらえるならやりたいですけれど、このご時世、美しいものへの需要が高いですからね。僕みたいな俳優が、最初から恵まれて、バイトをすることもないまま続けてこられたのって、奇跡に近いと思っています。そういう意味では、自分を誇っているし、恵まれているなと感謝しています。
――でも実際、ブッチャー役も、映画『ちはやふる』の肉まんくんこと西田役も好評でしたよね。それは、矢本さんが製作側から求められている以上のものを役にプラスしていたからだと思うんです。
矢本:そんな才能はないですよ。僕はもっと冷静に、大人の人たちがどういう人と仕事をしたいかを考えて、そう思われる人になろうとしています。僕らにとって、最初のお客さんは監督やプロデューサー、キャストさんたち。まずは、現場にいる方々に楽しんでもらったり、泣いてもらったり、感動させないとマズいな、と思っていますし、しゃべる時もサービス精神は欠かしません。目立ってナンボです。
――そういう意識を持つようになったのは、いつ頃から?
矢本:最初っからあったかもしれない。自分には何もない、って気づくのがわりと早かったんですよ、僕。最初、研究生として大人計画(松尾スズキさんが主宰する劇団)に入ったんですけれど、舞台稽古の初日に、ヤバい、才能ないって思い知らされました。あんな天才や変人たちと自分のような何にもない凡人が渡り合えるわけがないって。もちろん、若かったし、そんなことないってつっぱりたかったですけれど、努力でどうにかなるような壁の厚さじゃない。完全に戦い方を変えないといけないなと、逆に冷静になりましたし、そこに早く気づけたことが自分の強さなのかなってポジティブに(笑)。
――そもそも、なぜ大人計画に入ろうと思われたんですか?
矢本:両親が大人計画が好きだったんです。ふたりはずっと僕を俳優にしたいというのがあって、オーディションの告知があった時に、勧められたんで、軽い気持ちで。ただ、当時通っていた専門学校で落ちこぼれだったんで、受かって先生や同級生を見返したいというのはあった気がします。
――で、合格されたわけです。
矢本:僕の番が来る頃には、審査員も飽きてるだろうと思って、演技力とか面白さがどうこうより、とにかくインパクトを残そうと悪目立ちするようにしたんです。めんどくせー奴いたなって話題になって、奇跡起こんじゃねーかって(笑)。実際、起こりましたし、二次も三次もめちゃくちゃ怒られたけれど、受かっちゃいました。
――どんなことを?
矢本:雑誌に載せられるようなことじゃないです。黒歴史です。審査のなかに、将来の自分へ、という作文もあったんですけれど、その時は遠距離だった彼女と別れたばっかり。辛すぎて書くことがなくて、スペースが余って「直接会え」ってでっかい文字で書きました。芝居とか笑いのセンスでは一切勝負しなかったです。
――でも、せっかく人気劇団に入れたのに、やめてしまいます。
矢本:すごすぎたんです。あまりにも大人計画の世界がかっこ良すぎて、その価値観に囚われてしまいそうで…。ここが自分のすべてじゃない、もっといろんな考え方に触れないとって思ったんです。ただ、DNAは確実に残ってはいます。よく、宮藤(官九郎)さんや阿部(サダヲ)さん、荒川(良々)さんに飲みに連れていってもらっていましたが、話していると、皆さんのユーモアとか笑いに対する貪欲さがすごい。学生の頃って、ちょっと面白いだけで注目されるじゃないですか。でも、プロの中に入ると、全然通用しない。一体この人たちはどういう視点を持っているのか、これまで何を観てきたのかって疑問が湧いて、レンタル店で、ア行から順番に借りて観たり、舞台もできるだけ観に行って、知識の引き出しを増やすようにしました。あとは、性格悪くなってやろうって思ったり。
――性格を悪く、ですか?
矢本:大人計画って、人のコンプレックスを笑いに変えていくようなところがありますよね。結局、芝居って全部そうだと思うんです。どんな人にもコンプレックスがあって、それがユーモアとか人としての深みになる。だから、とにかく人のコンプレックス…癖から何から、変なところやダメなところをたくさん見つけるようにしました。普通の人が気にならないところに、イラついたり面白がったり。それを役にあてがっていったりもして、どんどん自分の武器にしていくようになってから、ちょっと評価されてきた気がします。だから、人を傷つける目的ではなくて、人を喜ばせるために性格を悪くしていったというんですかね。そういう視点で周りの人を見るようになってから、逆にたいていのことは許せるようになったし、他人にイラつくことがなくなりました。
――先ほど、ご両親が矢本さんを俳優にさせたかったっておっしゃっていましたけれど、親の敷いたレールには乗りたくない、というような反抗心はなかったですか?
矢本:弟はそっちでした。僕は自分に期待してなかったし、やりたいこともなかったんで。あと、小さい時から、お前は役者に向いてるって言われてきて…完全に親バカですけど、僕も、それ以外に道がないと思っていたんだと思います。もう洗脳です(笑)。だからいま、両親はすげー嬉しそうです。
やもと・ゆうま 1990年8月31日生まれ。京都府出身。映画『ぼくんち』で映画デビュー。大人計画出身。近作に、ドラマ『半分、青い。』『フェイクニュース』『ルームロンダリング』、放送中の『今日から俺は!!』のほか、2019年の映画『賭ケグルイ』『アイネクライネナハトムジーク』や、1月期の連続ドラマなど多数の作品が待機している。
矢本さんが出演する映画『レディ in ホワイト』は11月23日より、ユナイテッド・シネマ アクアシティお台場ほかで順次公開。裕福な家庭で何不自由なく育ってきたヒロイン・如月彩花(吉本実憂)が、理不尽な仕事を押し付けるパワハラ上司に立ち向かっていくお仕事コメディ。矢本さんは如月の先輩社員を演じている。
シャツ¥46,000(スタジオ ニコルソン/キーロTEL:03・3710・9696) パンツ¥16,000(バージスブルック/プーオフィスTEL:03・6427・7081) usedのシューズ¥12,000 usedのチェーンブレス¥6,000(共にラムホール ベルーフTEL:03・5489・6567)
※『anan』2018年11月28日号より。写真・小笠原真紀 スタイリスト・市野沢祐大(TEN10) ヘア&メイク・Reina(TRS) インタビュー、文・望月リサ
(by anan編集部)
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