「もともと男がどう、女がどう、ということでないところを目指したいと思っていて。私という女性が、“女性だけの書き手を集めた雑誌”で女性について書くことに窮屈さを感じ、男性を書こう、と自然とそう考えました」
本作では、日ごろ男性を見て感じていたことを反映させた。
「男性だけのマチズモ的な社会の中で上下関係が形成され、受け継がれていっているように見えるので、その終わりのなさを書きたかった。ブルーグラスという弦楽器のバンドにしたのは、弦というものが締め付けや抑圧のイメージに繋げやすかったからです」
女嫌いで威圧的だった父親の元で生きてきた息子たちの関係にも少しずつ変化が訪れるが、
「自分も相手も共同体の一部であったと思っていても、実は“個”なんですよね。ずっと生きてきたコミュニティの中で自分が個であることに気づきながら生きていくのは、すごく大変だと思う。でも、今いる場所を疑う視点は持っていたい」
一方、芥川賞候補作「風下の朱」は、大学の女子の野球部の話だ。
「『無限の玄』は自分から見た男性を書きましたが、女性である自分が客観的に女性を書くのはずるい気がして。ですから自分のことを書きました。ここに出てくるポリティカルコレクトネスを気にする立場の人も、自分の欲求に正直な人も、何も考えていない人も、みんな自分ですね。それに今回は、生理のことを書きたかった。明らかに生活に支障をきたすものが結構なスパンでやってくる悔しさもあって」
一連のジェンダーを主題とした小説を書いてみて思ったのは、
「性というものから解放された状態を求めていましたが、自分が女性であることからは逃れられないと気づきました。自分の性を引き受けたうえで自由を求めることは可能だと、そう思えるものを今後は書いていきたいです」
『無限の玄/風下の朱』父親と叔父、息子たちで組んだ旅回りのブルーグラスバンドで、ある日、父親が死亡するが…。男社会、女社会、それぞれを投影した2編。筑摩書房 1400円
こやた・なつき 作家。1981年生まれ。2013年に「今年の贈り物」で第25回ファンタジーノベル大賞受賞。’17年『リリース』で織田作之助賞、’18年「無限の玄」で三島由紀夫賞受賞。
※『anan』2018年9月12日号より。写真・土佐麻理子(古谷田さん) 大嶋千尋(本) インタビュー、文・瀧井朝世
(by anan編集部)
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