侵害か、宣伝か。表現の自由にも関わる問題。
「ファスト映画」とは、映画の映像を権利者に無断で使用し、字幕やナレーションをつけて10分程度に短くまとめ、あらすじを紹介する違法動画のことを指します。東宝や日活などの大手映画会社13社は、これらの違法動画をインターネット上にアップし、多額の広告収入を得ていた男女3人に対し、著作権侵害として総額5億円の損害賠償を求める訴訟を5月に起こしました。
映画会社にとっては、ストーリーのネタバレもありますし、映画館や配信でお金を払って観る人を減らしていると問題視しています。実際、こういうあらすじや解説を無許可で行う動画は近年、とても増えてきました。
一方、ファスト映画を作る側は、本当に面白い作品はネタバレしていようと観たくなるもの。コンテンツにわかりやすい解説をつけて公表することで、これをきっかけに作品を知る人が増え、オリジナルを観ようとする人も生まれているのだから、権利侵害とはいえないのではないかと主張しています。
実際にどれくらいの損害を出しているのかは、実証も必要になるでしょう。ただ、個人に対して5億円の損害賠償というのは、無断で映像を使用するという違法行為そのものへの抑止の意味合いも大きいと思います。
著作権侵害に関しては、数年前に無料で漫画が読めるサイトが摘発されました。こちらは全編がそっくりそのまま読めたので明らかな侵害になります。ファスト映画の場合、「10分程度に編集している」というのが、表現の自由として認められる引用の範囲と捉えるかどうかという問題も絡んできます。
二次創作という観点では、日本のアニメ文化が世界でコンテンツとして認知された背景に、コミックマーケットやコスプレにおいて、二次創作が一部許容されていることも挙げられます。また、韓国の映画やポップスが世界的に広まったのも、国が著作権侵害を黙認し、拡散を許したということもあるんですね。もちろん、無断で著作物を使用することは明らかに違法です。ただ、どの範囲まで表現の自由として認めるのかにも関わるテーマなので、慎重な議論が求められます。裁判のゆくえを注意深く見ておきたいと思います。
堀 潤 ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX平日7:00~)が放送中。
※『anan』2022年7月20日号より。写真・小笠原真紀 イラスト・五月女ケイ子 文・黒瀬朋子
(by anan編集部)