誰もが自分の目標と感じる、皆で考えた「未来のカタチ」。
たくさんのお金や権力を手に入れるために、地球の資源や自然、人の権利など何かを犠牲にするやり方はもうやめよう。近未来の新しい経済のあり方、世界のあり方をみんなで考えようよ―SDGsのメッセージだ。
SDGs(エス・ディー・ジーズ)は、「持続可能な開発目標」と訳される。2015年9月の国連サミットで、加盟する193か国すべてが賛成した国際目標。ゴールは2030年で、それまでに目指す「未来のカタチ」が、17の目標と169の“ターゲット”と呼ばれるより具体的な目標にまとめられている。
この世界をみんなで大転換しようという壮大なビジョンは、かつてないほど多くの意見を集めて作られた。
「一部の専門家がルールをすり合わせる決め方ではなく、“会議室の外”にいる専門家や、ウェブ上で募った約1000万人の声をもとに課題を検討し、時間をかけてまとめられました」(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授・蟹江憲史さん)
誰もが自分の目標と感じ、納得できるような配慮は、その作成過程でも際立っていた。
みんなで考えた目標の理念は、「誰一人取り残されない」世界。SDGsに先立つミレニアム開発目標(MDGs)は、2015年までに1日1.25ドル未満で暮らす極度に貧しい人たちを半減させるなど、8つの目標と21のターゲットを掲げた。ホワイトバンドのキャンペーンを覚えている人もいるだろう。MDGsは一定の成果は上げたものの、陰で置き去りにされた人がいたり、日本などの先進国でも格差の広がりで「相対的貧困」といわれる貧困層が増えていることが後々わかってきた。SDGsでは、MDGsに不足していたこうした視点を慎重に拾い集めていった。
「MDGsは途上国の目標と捉えられてしまい、先進国にまで広がらなかった。だからSDGsでは、『環境』と『社会』と『経済』の持続性に絡む様々なことを含ませ、課題を大きく広げています」
また、SDGsといえば、カラフルなアイコンやドーナツ型のバッジを思い出すが、コミュニケーション戦略を指揮したのは、『Mr.ビーン』『ノッティングヒルの恋人』などの脚本を手がけたリチャード・カーティス。国連がハリウッド映画のようなプロモーションを行った前例はなかったが、クリエイティブのプロが結集したことで、SDGsはより多くの人に浸透した。
未来から今を考えるというスタンスはSDGsの魅力でもある。目指すゴールはあるが、やり方は自由だ。進み具合を測るバロメーターも大まかな基準はあるが、使い方は各国に委ねられている。
「現在から未来を眺めると、今あるしくみが邪魔をして思い切った発想はなかなか出てきませんが、逆に到達点から今を眺めると、社会の矛盾点がより明らかになります」
アポロ11号が「人類が月に降り立つ」という目標から逆算して成功したように、課題が困難だからこそ、そこには大きなチャンスも潜んでいる。
「若い世代がこの課題に興味を持ち、面白がりながら取り組んでいます」
誰もができることから取り組める人類共通の道しるべ、それがSDGsなのである。
SDGsは「環境」「社会」「経済」の分野で整理しよう。
「経済」ありきでなく、地球の森や海、生物、資源などの「環境」、差別や格差なく、誰もが平和で健康的に暮らせる「社会」を大前提にするというSDGsの構造が左の図からよくわかる。出典:『未来を変える目標 SDGsアイデアブック』(紀伊國屋書店) llustrated by Johan Rockstrom and Pavan Sukhdev
かにえ・のりちか 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。近著に『SDGs(持続可能な開発目標)』(中公新書)。SDGs関連を中心に政府委員を多く務める。
※『anan』2021年4月7日号より。イラスト・北澤平祐 取材、文・岩井光子
(by anan編集部)