
漫画『ザハの恋』の作者、嵐山のりさんにお話を伺いました。
身近な人でも、どういう人生を歩んできたのかはわからないのかもしれない
古今東西、愛されてきた吸血鬼の物語に、嵐山のりさんの美しい作品が、またひとつ加わった。
「吸血鬼や妖怪など、不思議な生き物の出てくる物語がもともと好きで、自分で描くなら日常と非日常が混ざったような話にしたいと思いました。ちょうどその時期、過去を振り返ることが多く、大人になってからの5年や10年は子どもの頃に想像していたよりもずっと早いことに衝撃を受けて。不老不死である吸血鬼の視点から、人間の時間が映し出されるような話につながっていきました」
かつて恋に落ちたヒマリという女性を捜して、吸血鬼のザハがやって来たのは、閑静な住宅地にある一軒家。60年ぶりに再会したヒマリは、2人の孫と暮らすおばあさんになっていたが、時間の観念が異なるザハは意に介さない。しかもヒマリという名は、女優を目指していたときに温めていた芸名で、本名はツグミとのこと。ザハは孫の協力を得ながら、ツグミと一から関係を築いていこうとするが、やがて孫たちすら知らない過去が浮かび上がってくる。
「これも自分の経験がきっかけになっているのですが、祖母の押し入れから古いアルバムを見つけたことがあって、祖母の若い頃について何も知らないことに初めて気がつきました。身近な人でも、どういう人生を歩んできたのかはその人が語らない限りわからないのかもしれないと思い、そのとき感じたミステリアスな部分や愛おしさを、ツグミのキャラクターに生かしています」
ツグミの過去を解き明かす糸口となるのが、かつて活躍していた筧(かけい)マリという女優の存在。女優になることを夢見ていたツグミが、強い執着を抱いていたようなのだが、やはり本人は多くを語ろうとしない。

Ⓒ嵐山のり/講談社
「吸血鬼は、私たち人間からしたら十分に不思議な生き物だけど、ザハにとっては彼女の心が一番のミステリーなんだろうなと思いながら描きました。私はわりとストレートに自分の感情を出してしまうタイプですが、相手にどういう面を見せたいか、信念を持っている人は素敵だなと思います。演じることも含めて、そういう生き方が引き立つような物語になっていたらうれしいです」
現在と過去を行き来する過程に、さまざまなトリックがちりばめられていて、真実に辿り着きそうで辿り着かない読みごたえも。慕い続けてきた人のまったく知らない一面を、ザハはどう受け入れるのか。そして彼の思いは、ツグミに届くのか。
「ミスリードしそうな謎を毎回入れ込みたくて、かといって複雑になりすぎないよう、回想シーンのタイミングや順番もこだわりました。初めての連載でしたが、たくさん悩んで考えて、とても楽しい時間でした」
Profile
嵐山のり
あらしやま・のり 「ふしぎの国の私」で「アフタヌーン四季賞2021年夏のコンテスト」大賞受賞。一穂ミチの短編小説『魔王の帰還』のコミカライズも。
information
『ザハの恋』上・下
人間とは生きる時間も価値観も異なる、吸血鬼の青年・ザハが、かつて恋した女性と60年ぶりに再会。彼女の数奇な運命をひもといていく、恋愛ミステリー。 講談社 各792円
anan 2492号(2026年4月15日発売)より

















