
中島侑香さん
“在留資格”を持たず、突如親友が入管施設に収容されてしまう──引き裂かれた友だち同士を通じて難民問題を描いた映画『イマジナリーライン』が1月17日(土)にユーロスペースをはじめ全国劇場で公開される。主演をつとめたのは、連載「なかしーの山手線一周呑み」などananでおなじみの俳優、中島侑香さんだ。
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フィクションを通して、“知るきっかけ”を作る
2023年6月、不法残留する外国人らを難民申請中でも送還可能とする「入管法改正案」が採択され、入管制度の厳罰化がさらに進んだ。そんな状況をふまえて、映画を専攻する東京藝術大学大学院の学生たちが修了制作として企画したのが映画『イマジナリーライン』。映画学校を卒業したばかりの山本文子(中島侑香)は、親友・モハメド夢(LEIYA)と映画制作を続けていた。ある日、ふたりで訪れた旅先で夢が“在留資格”をもたないことが発覚し、入管施設へ収容されてしまう。
フィクションだが、仮放免者や入管の被収容者、支援者など丁寧に取材が行われ実態に切り込んだ本作。社会問題に正面から向き合いつつも、友情を出発点に描くことで、難民について“知るきっかけ”をもらえるような作品になっている。文子役をつとめた中島さんも、作品に関わるまで難民問題についてほとんど知らなかったという。
「ニュースで流れているのは見ていましたが、実際にどういう問題なのか、ほぼ知識がありませんでした。坂本憲翔監督から『難民問題についての映画を撮りたい』とお話を聞いて、『牛久』という入管施設についてのドキュメンタリー映画を見たんです。そこで、こんな悲惨な状況が日本で起こっていることを知って…『やります』、と覚悟を決めてお返事しました。私も無知だったからこそ、こういう現実があることを映画を通じてみなさんに知ってもらいたい。監督からも長文のメッセージをいただいて、険しい道も一緒に乗り越える覚悟で挑みました」
報道番組で取り上げられることも増えてきたが、身近な話題ではない人からすれば、知るきっかけがなかなかないかもしれない。本作は難民問題に直面する人と、文子のように“知らない”人が登場する。文子が少しずつ学びを深め、自分なりにできることを模索する姿は、まさに「現実を知る第一歩」として観客にきっかけをくれるはずだ。中島さんも、映画に携わりながら文子と同じ歩幅で、学びを深めたという。
「文子は入管法改正法案を知らず、突然親友が捕まってしまい“どういうこと?”と混乱の中で難民問題について調べ始めます。なので、文子と気持ちを合わせるために、知りすぎないようにして現場に臨み、少しずつ勉強していきました。映画が完成して、映画祭で舞台挨拶の機会をいただいたときは、自分なりに意見を持ちたいと思って、ニュースを調べたり同じテーマを扱った作品を見たりしました」

アドリブとして現れた、ふたりの関係性
坂本監督の作品に出演するのは二度目の中島さん。監督は与えられた場面設定と人物像だけで、俳優がその場で芝居をする即興演出(エチュード)というアドリブに任せた演出方法をとる。
「キャストによって演出の仕方が異なるんですが、文子と夢のシーンは即興演出が多く、ボートや海辺のシーンはほぼアドリブでした。セリフを全部言い終わっても、しばらくカットをかけてくれないんです(笑)。なので、演技を続けなきゃいけないプレッシャーと、自由にお芝居をさせてもらえるおもしろさ、その両方があるのですが、私の場合は後者が勝りますね。アドリブで会話ができるようになるまで脚本を読み込む、ということを意識して撮影に取り組みました」
文子を演じるうえで「夢との関係性を作り込むことも大切にしました」と中島さん。文子と夢は親友であり、ふたりの絶対的な信頼関係がないと成立しない物語だが、どのようにして関係を作ったのだろうか。
「クランクイン前にLEIYAさんと会ったのは2、3回程度だったんですが、LEIYAさんが心を開いてくださったおかげで“はじめまして”みたいな会話をスキップできて。はじめから幼なじみのような会話をして、安心してお芝居ができる環境をふたりでつくりました。何が好きなのか、どんなことを考えているのか。変顔したり走ったり(笑)、大人っぽくないコミュニケーションの取り方をしたおかげで、関係が作れたと思います」

役と重なり合った、自身の経験
中島さんにとって本作は初主演。文子という役柄について聞くと、自身と「共通している部分が多い」と話す。
「文子は突然のことに困惑するけれど、入管法改正案について勉強したり毎日夢に面会したり、自分の思いを信じて情熱的に動きます。そういう、猪突猛進なところは自分にそっくりだなと思います(笑)」
幼い頃からフィギュアスケートの練習に明け暮れてきた中島さん。競技を辞め、大学に通っている中である日突然「東京に行きたい」と思い立ち、すぐに上京したという。
「愛知県にある大学に通っていたのですが、大学2年生のときに突然『東京に行こう』と思い立ったんです。仕事も将来も、何も決めていなかったので親からしたら驚愕。でも、『生きるところはここじゃない』っていう気持ちは揺らがなくて、両親を説得しました。上京を決めて1週間くらいで愛知県を離れましたね。迷惑をかけて申し訳ないですが、自分の心に従ったほうがいいはずだ、という思いもあります。文子も、夢に何もできないけれど、自分の心に従って動かずにはいられない。大きな壁が立ちはだかっても1ミリも諦めていなくて、全速力でぶつかる感じに私も共感しました。がむしゃらにもがくことしかできない虚しさを抱えながら、夢に気持ちを届ける、ひたすら傍にいる、という姿勢を文子は見せてくれます。そこで、しんどいときって誰かがいるという安心感で乗り越えられる気がするなと思いました」
どうしようもないことに後悔し続けるのではなく、どうにか現実を手繰り寄せようとするようなラストシーンは、文子の思いが溢れている。

「何が現実で、何が妄想なのか。そういう線引きを語ることはこの映画では大切ではなくて、たったひとりの大切な人に向けて伝えたいことを伝えきる、ということを文子は大事にしていた気がします。周りをよく観察して、自分ができることをひたすら考えてから、気持ちを表に出す。感情があまり見えないけれど、たくさん泣きます。あんなに泣いた1か月は、人生ではじめてだったかもしれないです」
スタッフも含め、ほぼ同世代と作った本作。2年前に撮影を終え、ようやく劇場公開が封切られる今、中島さんの率直な思いを最後に聞いた。
「難しい問題を扱った真面目な映画、というイメージを持たれるかもしれないのですが、それだけじゃない映画です。文子と夢を通じて、他人同士が共生していくことについて考えを巡らせながら、お互いを受け入れることの困難さと大切さ、両面を感じ取っていただけたらうれしいです」
Profile
中島侑香
なかしま・ゆうか 俳優、モデル。1999年1月19日生まれ、愛知県出身。映画やドラマで活躍の場を広げる他、YouTubeチャンネル「なかしー」では、ハシゴ酒やひとりご飯の様子などをアップして注目を集めている。映画『イマジナリーライン』で初主演をつとめるほか、ドラマ『ザ・ロイヤル・ファミリー』、『あなたがしてくれなくても』、Official髭男dism 「Subtitle」ミュージックビデオなどに出演。
information

『イマジナリーライン』
映画学校を卒業してまもない山本文子(中島侑香)は、音楽好きの親友・モハメド夢(LEIYA)と一緒に映画制作を続けていた。ある日、母を亡くした文子に夢が「遺灰を海に撒こう」と提案し、ふたりで旅を決める。しかし、夢が在留資格を持たないことから入管施設に収容されてしまい、ふたりはわずかな希望を求めて立ち上がる。東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻18期の卒業制作作品として制作された、坂本憲翔監督の長編デビュー作。
監督:坂本憲翔 出演:中島侑香、LEIYA、丹野武蔵ほか
2026年1月17日からユーロスペースほか、全国で公開




















