
一穂ミチ『アフター・ユー』
一穂ミチさんによる話題の小説『アフター・ユー』をご紹介します。
喪失を知り、痛みを受け入れる。静かな覚悟が胸を打つ大人の恋愛劇
タクシー運転手の青吾(せいご)は、同棲相手の多実(たみ)が旅先で男性と海難事故に遭ったと知らされる。多実の家族も過去も知らなかった青吾は、捜す当てもない。そんな彼のもとに、転覆した小型クルーザーに同乗していた男の妻・沙都子(さとこ)が現れる。夫に何があったのか知りたいという沙都子にいざなわれるように、事故が起きた五島列島の遠鹿島(おじかじま)に行って調べることに。大切な人を突然失った人は、どう生きるのか。重いテーマに真っ正面から向き合った一穂ミチさんの『アフター・ユー』が話題だ。
「大事な人がいなくなったところから始まる話を書いてみたかったんです。主人公たちが置かれるのは、どうやったって行き止まりの場所で、呑み込めない“わからなさ”を、呑み込まなくてはいけない。生きていればいつか直面するかもしれない状況を、自分なりに書いてみようと思いました」
多実の遺品に、かつてもらった「遠鹿神社」と刺繍されたお守りがあった。結び紐をほどくと、中からはお札と畳まれた子どもの絵とテレホンカード。なぜかテレホンカードのデザインが、縁が薄くなり、会うこともなくなっていた青吾の母親の結婚披露宴の写真で…。多実は青吾の母親とどんな関係があったのか。沙都子の夫とは男女の関係だったのか。深まる謎に対し答えを見つけていくミステリー仕立てで物語は進む。
「多実から直接話を聞き出すことはできない。そんな中で、本当のことを知りたいと思ったときに道標になるものが必要だと考えました。そこから声だけ聞ける電話やテレホンカードを思いついたんです。どんな役割を果たすかは決めていたのですが、この島で何があって、それが事故へどう繋がったのかは輪郭がおぼろげなまま書き始めました」
作中に「死に別れと生き別れ、どちらがつらいか」という問いかけが出てくるが、「これはもう本当に答えが出ませんよね。会えないならどちらにしても同じだと思うかもしれないし、この歳になってくると身近な人と死に別れる寂しさを否応なく経験していくので、受け止めやすいかもしれないし。それに、時間が経てばまた違ったことを思っているのかもしれません。そういう意味では、歳を取ってから読み返すのが自分でも楽しみな小説です」
Profile
一穂ミチ
いちほ・みち 大阪府生まれ。2007年、「雪よ林檎の香のごとく」でデビュー。『スモールワールズ』で吉川英治文学新人賞、『ツミデミック』で直木賞を受賞するなど、著書、受賞歴多数。撮影・釜谷洋史/文藝春秋
information
『アフター・ユー』
遠鹿島には漢字違いの小値賀島というモデルがあり、取材にも行ったそう。そこで見た地域の会報が〈おじかだより〉として、青吾たちに重要なヒントを与えるなど作中で活かされている。文藝春秋 1980円
anan 2479号(2026年1月14日発売)より





















