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ドラマや映画、そして音楽で世界を席巻し続けている韓国エンタメ界。王道のジャンル映画はもちろん、アカデミー賞作品賞に輝いた『パラサイト 半地下の家族』のようなアートハウス作品も世界的に高く評価されている。2013年に全州国際映画祭コンペティション部門に出品された『Groggy Summer』で長編映画監督デビューを果たしたユン・スイク監督は、そんな韓国のインディーズ映画界を背負う一人だ。若々しく斬新な映像美と登場人物のリアルな感情をビビッドに描く手法に注目が集まった彼の新作『12月の君へ』がついに日本公開される。


伝えられなかった想いが向かう先は?

高校時代に出会った2人の女性の関係を追い、友情と恋愛の狭間で揺れ動く姿を繊細に描写したクィア・ロマンスだ。始まりは、人気俳優ソルが田舎の高校に転校したこと。この高校で演技を学ぶ女子高生スアンは美しいソルに惹かれるが、自分の気持ちを理解するには彼女はまだ幼かった。ある夜、ソルにキスされたスアンは恋愛感情を否定。その後、教師からソルが再び転校したことを知らされたスアンはやがて、人気俳優として頭角を現していくのだが…。

子供以上、大人未満という高校時代は多感な時期だ。アイデンティティが確立していないので自分が何者かもわからず、足場さえも固まっておらず、常に不安定さや混乱がつきまとう。こんな時期に出会った二人が育んだ絆は、本人たちも自覚できない「友情以上、恋愛未満」なもの。ただし俳優であるソルは一足早く社会に出ていて、はっきりと感情を自覚していたため、恋愛感情を否定され裏切られた気持ちになったに違いない。

気持ちがすれ違った二人が再会するのは、大人になってから。映画界入りし、かつてソルが抱えていたのと同様の不安を感じているスアンは、疎遠になっていたソルを捜し続け、冬の海で発見。ソルとの再会で、スアンは心の奥に閉じ込めていた恋心を認める。そして雪が降りしきるなか、二人はサーフィンで荒れ狂う波に挑戦する。

スイク監督独特の美しい映像美が女性たちの複雑で繊細な心模様を際立たせる。ただ、ムードとスタイルを優先させているため、舞台設定や時の流れ、象徴的なセリフなどに戸惑うかもしれない。幻想的な場面も多く、現実と空想、記憶と願望が入り交じる。だがそれゆえに、スアンとソルの、言葉にしない複雑な感情を観る側が自由自在に推測できるのもこの映画の醍醐味だ。

多様な解釈ができる余地を残した好演で物語を牽引するのは、アートハウス作品への出演が多い演技派のハン・ヘインと、TVドラマ『わかっていても』でブレイクしたハン・ソヒ。それぞれが内面に抱えた孤独や葛藤、人を愛することの美しさと痛みを巧みに表現していて、観る人の心を大きく揺さぶる。素晴らしいケミストリーである。ファッション界も注目するソヒにとっては売れっ子になる前の映画デビュー作であり、初々しさもありながら情熱的な演技で強い印象を残す。

また幻想的な映像に仕上がっているが、極寒の海や雪深い山での撮影が困難を極めたことは想像に難くない。難しい撮影に体当たりで挑戦したヘインとソヒのプロ根性はさすがだし、韓国映画界の将来を担う俳優としての責任感も伝わってくる。

Information

『12月の君へ』

監督・脚本/ユン・スイク 出演/ハン・ソヒ、ハン・ヘインほか 12月5日より渋谷・ホワイトシネクイント、kino cinema新宿、イオンシネマ座間、kino cinema心斎橋、ユナイテッド・シネマなかま16ほか全国公開。

文・山縣みどり

anan 2473号(2025年11月26日発売)より
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No.2473掲載

カルチャーを感じる、ゲーム案内2025

2025年11月26日発売

川村壱馬さんのゲーム愛インタビュー、大ヒット作『都市伝説解体センター』の魅力解剖、可愛いドット絵ゲームが人気の「カイロソフト」紹介、ボドゲからTRPGまで取り上げたアナログゲームガイドなど、今回もゲームの楽しさと魅力をたっぷりとお届けします。

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