
小栗 旬さん
新型コロナウイルスを乗せた豪華客船ダイヤモンド・プリンセスが横浜港に入港したのは、2020年2月のこと。その後、船内に日本初となる集団感染が発生するという状況下で、“最前線”に駆けつけたのは、医師や看護師たちで構成された災害派遣医療チームの“DMAT”(ディーマット)。今作は、治療法が不明の未知のウイルスに立ち向かい、命を救うことを最優先にした彼らの奮闘を、実話を基に描いた物語。小栗旬さんが演じたのは、DMATの指揮官で医師でもある結城英晴だ。
一人でも多くの命を救いたい、という想いで演じました。
「過去に何度かお仕事でご一緒していた(企画・脚本・プロデュースの)増本(淳)さんから直接オファーをいただきました。当時僕も興味を持っていた出来事でしたが、脚本を読ませていただくと知らないことばかりで。同時に増本さんがこの作品にかける想いを知り、ぜひやってみたいと。ただ、それまでのキャラクター的に、僕が演じるのは、かつての大震災で共に活動した結城の“戦友”ともいえる医師・仙道行義(窪塚洋介)だと思ったし、増本さんにもそれを伝えてみたんです。そうしたら『絶対そう言うと思ってたよ。でも父親になって40代に入り、いろんなことを背負うようになった旬が、今までとは違う役をやるのを見てみたい』と言われて。そこで、自分でもすごく貴重な経験になるだろうし、面白いとも思いました」
船内の現場で責任者たちに、歯に衣着せぬ物言いで主張をしながら命を救っていく仙道に対し、船外から懸命に対策に当たる結城。
「発散する場所もなく、苦悩を続ける結城を演じるのは難しかったです。結城や仙道、厚生労働省から派遣された役人の立松信貴(松坂桃李)、DMAT隊員の真田春人(池松壮亮)は実在する人物がモデルになっているのですが、実際に、結城のモデルになった方にお会いしました。当時の状況などを伺う中で、最も強く感じたのは一人でも多くの命を救いたいという想い。だから僕もそれを信じて演じました。そもそも、増本さんの綿密な取材のもとに描かれた物語自体がドラマティックなので、僕ら俳優は無理をしなくても、当時の状況を追体験していくように演じていくだけでよかったというのもあります」
さらに「当時からそれほど時間が経たないうちに、みんなが触れられずにいたことに正面から向き合ったこのような作品は、これまで日本にはあまりなかった」とも語る。
「誰もが経験したコロナ禍という非常事態について、また、自分たちが日々受け取っている情報は果たして正確なのか…ということも含め、事実を知り、考えるきっかけになる作品。そこに関われたことを誇らしいと思いますし、モデルになった方が完成作を観た時に大号泣していたと聞いて、本当にやってよかったと思っています」
それぞれが自分の役割を全うする中、時にぶつかりながらも信頼関係が築かれていく様子には心打たれる。
「苦しく困難な状況では、特に人柄が出ると思うのですが、逃げずに向き合い、乗り越えていこうともがく姿を見ることで信頼は生まれると思います。僕が普段から信頼できるのは、ちゃんと謝ることができたり、感謝できる人。基本ですが『ありがとう』『ごめんなさい』を言える関係性を築いていくことは、やっぱり大事だと思います。とは言いつつも、普段後回しにしがちなこともあって。最近も洋介くんから『既読スルーが多い』と注意されちゃいました(笑)。この日ごはんに行こうと誘ってもらうんですが、撮影スケジュールが出ていないとなかなかはっきり返事ができないんです。スケジュール管理がしっかりしている洋介くんに対し、僕はそのへん苦手なところもあって、よくないですね。でも、とてつもなく憧れてきた洋介くんと、27年前のドラマ『GTO』ぶりにこうやって“戦友”という形で共演できたことは、ある意味、胸アツでした」
小栗 旬さん
Profile
おぐり・しゅん 1982年12月26日生まれ、東京都出身。主演作は『リッチマン、プアウーマン』『信長協奏曲』、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』、『日本沈没‐希望のひと‐』、映画『銀魂』『人間失格 太宰治と3人の女たち』ほか多数。
『フロントライン』
Information

2020年2月、横浜港に入港した豪華客船の中で新型コロナウイルス感染が拡大。出動要請を受けたのは災害派遣医療チーム“DMAT”。当時船内では何が起きていたのか…。パンデミックの最前線にあった事実に基づく映画『フロントライン』は6月13日全国公開。Ⓒ2025「フロントライン」製作委員会
写真・小笠原真紀 スタイリスト・伊賀大介 ヘア&メイク・渋谷謙太郎 インタビュー、文・若山あや
anan 2450号(2025年6月11日発売)より