本谷有希子『セルフィの死』

SNSのフォロワー獲得のために七転八倒するミクルを主人公にした本谷有希子さんの『セルフィの死』。〈自分とフォロワーしかいないシンプルな世界を生きている〉ソラにシンクロしたくて、日夜あがくミクルの行動や心情は滑稽でもあるのだが、切なさや共感が止まらない。


自意識や承認欲求の厄介さについて、新しい角度で斬り込んだ意欲作。

「最初の章で出てくるような〈老舗の隠れた名店〉で執筆をしていたときに、パンケーキと自撮りする女の子の2人連れを見たことがあって。私は食べ物と自撮りしようと思ったこともないので、『何であんなことするのかな』と不思議でした。それをひとつのきっかけとして、自分がまったく理解できない他者のことを、全力で想像して書いてみたいなと思ったんです。自意識過剰なミクルという語り手を狂言回しにして、1話ごとに、私が現代的だと感じる場所を訪れてもらい、現代性を感じる相手と対でコミュニケーションしてもらうというふうに、次第に形が決まっていきました」

原宿のレインボー綿菓子店の行列で出会ったユニセックスな男子、池袋の完全オートメーション化された回転寿司屋で見かけた不審な行為に及ぶ兄妹等々、現代社会における記号的な人やモノや出来事が登場。

ちなみに、インタビュー中に、実は本谷さんは本書刊行前までSNSをやったことがなかったという事実が判明(いまはアカウントを開設して2か月ほどだという)。このリアリティあふれる描写が想像力だけで描かれたことが衝撃的だ。

「ミクルのような、フォロワー数ゼロという言葉を想像しただけで膝が震えて涙が流れる人なんていないと思うけれど(笑)、私はリアリティよりデフォルメして書くのが好きなんですよね。書いていて想像したのは、フォロワーや共感を求める人たちにとって『いいね』は他者から生きてていいよという資格をもらえたみたいな感覚なんだろうなと。もしみんなの中にうっすらとそんなイメージがあって共有しているなら、生きていくのはしんどいでしょうね」

一方で、本谷さんは、ソラのふるまいを、いまの時代にすごく適合した社会的強者として描き、そのコントラストの鮮やかさに唸らされる。

「これまで存在しなかった苦しみ、まだ名前もついていない苦しみ。ミクルのそんな煩悶を描き出すのも、本作ではやりたかったことでした」

Profile

本谷有希子さん

もとや・ゆきこ 1979年、石川県生まれ。2000年「劇団、本谷有希子」を旗揚げし、主宰として作・演出を手がける。’16年、『異類婚姻譚』で芥川賞受賞。本作は著者約10年ぶりの長編。

Information

『セルフィの死』

SNSに載せる写真を撮りに行った喫茶店で店員にマウントをしたり、他人の写真をパクったり、フォロワー獲得に死力を尽くすミクルだが…。新潮社 1870円

写真・中島慶子(本) インタビュー、文・三浦天紗子

anan2436号(2025年2月26日発売)より

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