社会のじかん

堀潤の「社会のじかん」第482回:韓国非常戒厳令とその後

エンタメ
2025.03.07

意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「韓国非常戒厳令とその後」です。

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政治闘争の混乱に乗じず冷静に注視。民主主義の底力を。

昨年12月3日、韓国の尹大統領は非常戒厳令を宣布しました。1月26日には、内乱を首謀した罪で大統領の起訴を検察が発表。韓国で現職の大統領が起訴されたのは初めてのことです。

戒厳令が宣布された日、僕は韓国に向かいました。国会議事堂周辺では、それぞれの政党を支持する人々が熱く声を上げていました。一方、商業エリアの明洞では、「政治家たちは私たち国民の方を向いていない。これだけ経済が悪いのに、なぜ政治闘争を続けるのか」という不満の声をたくさん聞きました。暮らしが厳しいことを現職の政治家にぶつけても、経済はグローバルに展開しており、ものすごい速さで変化しているので、その政治家一人の問題ではない。つまり、政治のスピード感と経済のスピード感にはズレがある。どの先進諸外国も同様の問題を抱えています。どこに怒りや不満をぶつけていいかわからずフラストレーションが溜まり、選挙では与党が負け、急に極右政権が誕生したり、権威主義的な人が支持されるなどしています。

韓国では、これまでも大統領が刑事訴追され退任後に逮捕されるケースが繰り返されています。文在寅政権以前では約半数が起訴されました。大統領を引きずり下ろしたい勢力が強くなると、検察を動かして、大統領に不利な事柄を集め罪を暴いていく。検察が政治家に利用されやすいため、文大統領政権時に独立した捜査機関が作られました。その捜査機関が今回、尹大統領を捜査しましたが、逆に大統領側はその捜査が違法と主張するなど膠着状態が長く続きました。しかし、これら一連の動きは、一応手続きを踏んでいるので、民主的な動きともいえます。

韓国はかつて軍事政権下でクーデターが起き、市民が銃殺される「光州事件」が起きました。あの悲劇を絶対に繰り返させないという、市民の強い意識も感じられました。政治闘争に安易に乗せられず冷静に見守る。それは戒厳令翌日に明洞で普通に観光客が買い物をしている様子からも窺い知ることができました。今年は日韓国交正常化60周年です。早く混乱が収束し、民主主義国家同士パートナーとして関係を築き合う年になるといいなと思います。

PROFILE プロフィール

堀 潤

ほり・じゅん ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。『堀潤 Live Junction』(TOKYO MX月~金曜18:00~19:00)が放送中。新刊『災害とデマ』(集英社)が発売中。

写真・小笠原真紀 イラスト・五月女ケイ子 文・黒瀬朋子

anan 2435号(2025年2月19日発売)より

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堀潤

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