――俳優を始めるまでの経緯を教えてください。
高校受験のために入った塾の先生に、「モデルの仕事に興味はない?」とスカウトを受けて。最初は何かの詐欺かなと思ったんですけど(笑)、どういう世界なのか見てみたいと興味が湧き、事務所に入りました。すると、家族や友だち、学校など、それまでのコミュニティにいる自分とは違う自分ができたことが楽しかったんですよね。最初はモデル業に夢中だったけれど、高校3年の時に『ニライカナイからの手紙』という映画のオーディションで初めて本格的なお芝居をしてみたら、ありがたいことに、蒼井優ちゃん演じる主役の親友役に決まりました。でも、与えられた3行のセリフが言えなかったんです。人生で初めての挫折というか、できなかった自分に対するモヤモヤで、その日は眠れなくて。作品を撮り終わって地元に帰ってきても悔しさが忘れられなかった。それから、沖縄で就職をして家族を持つという漠然とあった人生の道筋がガラッと変わり、勝負をしたいと思うようになりました。親には反対されたけど土下座をして。「1年だけ自分の力でやって、ダメだったら帰ってこい」と猶予をもらい、「じゃあ、見ていてください」と、貯金の20万円だけ持って東京に行きました。
――ええ! すごいです。
親戚や友だちもおらず、本来であれば暮らせなかったはずですが、ラッキーなことに、スカウトしてくれた女性の先生がたまたま上京していて、1年くらい居候させてくれて。優しいですよね。いろいろなオーディションを受け、最後のチャンスだと思って挑戦したのがNHK連続テレビ小説の『どんど晴れ』で、そこから人生が大きく変わりました。
――手持ち20万円で上京したご自身を、今どう思いますか?
当時は怖さより、やりたかったことができている現状が嬉しい気持ちが大きかったし、怖いもの知らずだったからこそよかったのかなと思います。夢しかなかったあの時のエネルギーは、今出せと言われても出ないくらい、強い、揺るがないものでした。
――俳優のお仕事のどんなところに興味が湧いたのでしょう。
表に出ることより、表現することですね。ドラマや映画が大好きで、テレビやスクリーン越しに見る世界に共感し、自分もできるかもしれないなと思っていた部分がありました。実際にやってみると、たくさんの人がカメラを構え、音声さんなどいろいろな人がいる中で自然な表情をすること、緊張や恐れを捨てて表現することの難しさを何よりも感じながら、でも、そこにハマっちゃったんですよね。なんなんだ、この世界! って。
――朝ドラに出ることは大きな一歩だと思いますが、『どんど晴れ』の撮影はいかがでしたか。
俳優の世界をもっと知りたい、探求したい! と思っていた私にとって、長い期間、同じ役を演じられることは、最高の訓練場に入らせてもらったような感じでした。しかも、現場のみなさんが家族みたいで。いまだに当時の出演者、スタッフとつながっていて、毎年3月にお花見をしたりも。本当にラッキーだったし、表現の楽しさを教えていただいた現場です。だからなのか、いまだに「芸能界の方」のように言われることがしっくりこなくて。表現者としていることが好きなので、ものづくりの現場において、撮影部、演出部、メイク部、衣装部…といろいろなプロフェッショナルがいる中の俳優部の一人、という感覚なんです。だからこそ今の仕事が楽しいし、その感覚をなくしたら、多分、今の仕事を辞めるだろうなと、ずっと思っています。みんなの集中力が高まった瞬間に生まれるものの一部を切り取って作品を作るから妥協はしたくないし、もちろん完ぺきじゃないからこそ、できない部分を補い合う現場が好きです。
――本当に現場にいることを大切にしているのですね。
自分でも職人気質でストイックだなって思います。沖縄から一人で出てきたつもりが、ずっと誰かと一緒にものづくりをしていて、しかもずっと飽きないから面白いです。本当にあの時、土下座してよかったです(笑)。20代の頃に、『マルモのおきて』とか、面白い作品や仲間たちに出会うことができて。でも、今、30代もすごく面白いし、じゃあ、40代になったらどうなるんだろうと楽しみです。とにかく健康ではいたいですね(笑)。自分の土台が整っていないと、すぐに折れるじゃないですか。アスリートの感覚と近いのかもしれませんが、ベストパフォーマンスをするために、ニュートラルな感じでいられるようにベースを整えたいんです。心身のバランスの保ち方を、試行錯誤して、ようやく掴めてきたのかもなと。
――どんな方法を実践しているのでしょうか。
たとえば、どんな相手であっても、時に「合わないかも?」と感じることがあっても、いい人もいれば、ちょっと意地悪な人もいるよね、人間だからな~と切り替えられるようになりました。悩み事というと大体、人間関係ですが(笑)、私は人間だらけの場所に好きで入ったので。修行ですよね。
――自分自身と真剣に向き合う人、という印象を受けました。
すごく考えますし、逆に、人のこともよく考えるほうだと思います。こっちの主観で知ったかぶるのではなく、役作りと一緒で“この人はなんでこうなんだろう”と想像してみたりとか。それが演技に生きることもあるし、もともと人間観察が好きだから面白いです。
――人というものに興味があるのですか?
すごくあるから、人の目を見すぎるんです。嫌な人もいると思うけど(笑)。でも、目を見るとわかることって多いですよね。
――先ほど、心身のバランスを整えることを大事にしているとおっしゃっていましたが、そのためにどんなことをしていますか?
休日は、朝起きたら窓を開けて換気してから、午前中のうちに掃除をします。自分を包んでくれる空間だから、空気を流したい、という感じです。それから好きなものを作って食べます。運動はマシンピラティスとキックボクシング、パーソナルトレーニングをやっていて、週に1度、3つのどれかを。キックボクシングは10年以上かな。コツコツタイプです。運動をするとすっきりするし、巡りが良くなるから悩まなくなる。
――ここにもストイックさが出ていますね。
と言いつつ、お酒も好きだから飲む時は飲むし、あと、現場からおうちに帰る送迎車の中で、’90年代ごろの曲をガンガンかけて思いっきり歌うと最高ですね。毎回、ランダムなんですけど、この間はMISIAさんの「Everything」を熱唱しました(笑)。
本当のヒール役に挑戦してみたいです。
――ちなみに以前、ananのインタビューで「推しを見つけることが目標」とおっしゃっていましたが、見つかりましたか?
できました。海外の方と日本の方がいて、どちらも歌手なんですけど。日本の方は藤井風さんです。
――海外の方はどなたですか?
誰とは言いたくなくて…(笑)。恥ずかしいじゃないですか。
――そうなんですね(笑)。
密かにSNSをチェックしていて、更新されたのを見ると、すごく嬉しくて。そういう気持ちになるのは、推しってことでいいですよね?
――間違いないです! ちなみに、これまでさまざまな役を演じてきていますが、これから挑戦したいものはあるのでしょうか。
やっぱり、経験していないことにトライしたいタイプなので。人を笑わせるようなコメディとか、あと、“実はいい人でした”とはならない、本当のヒール役がいいですね。私も人間だから、自分の中にダークな要素はもちろんあって。それを役として出した時の自分がどうなるか、どんな顔をするのかということを見てみたいという気持ちもあります。
――岩田剛典さんとW主演を務めるドラマ『フォレスト』も挑戦的な部分が多そうです。
恋愛サスペンスであり、完全オリジナル作品ですから、出演が決まった時からとても楽しみでした。私自身、考察モノやサスペンスの、どっぷりハマって抜け出せない感覚が好きなので、そうなっていただけたら嬉しいです。自分も、台本を読んだ時に面白いと思えたので、ブラッシュアップして、みなさんの予想を超えるものにして、良い意味で裏切っていけたら。早い段階からみんなでものづくりをしている仲間意識が芽生えたので、いい作品になると感じています。
――作品のテーマは“愛”と“嘘”ですが、親しい人が嘘をついていたり、知らない顔を持っていた時、比嘉さんはどうしますか?
難しいですね。私自身は嘘がつけず、全部顔に出るタイプだし、感覚は鋭い方だから親しい人に何かあると、すぐに気づいてしまうんです。そして、「どうしたの? 何かおかしいよね?」とストレートに言っちゃう。だから、何か抱えているなと感じたら見て見ぬふりはできないし、許す・許さないは置いておいて、そこに向き合いたいなと思ってしまうだろうなと。たとえ家族でも、すべてを知っているわけじゃないから、知らない部分があることの方が当然。でも相手が愛する人であれば、なるべく考えをすり合わせたり分かち合いたいですよね。
PROFILE プロフィール
比嘉愛未
ひが・まなみ 1986年6月14日生まれ、沖縄県出身。2005年、映画『ニライカナイからの手紙』で俳優デビュー。連続テレビ小説『どんど晴れ』で主演に抜擢され、代表作に『コード・ブルー ‐ドクターヘリ緊急救命‐』シリーズや、主演を務めた『にぶんのいち夫婦』『推しの王子様』『作りたい女と食べたい女』などがある。
INFORMATION インフォメーション
“愛”と“嘘”が絡み合うラブサスペンスを描くドラマ『フォレスト』。幾島楓(比嘉愛未)と一ノ瀬純(岩田剛典)は、同棲中の恋人同士。平凡ながら幸せな生活を送るが、互いにある「嘘」をついていて、次第に関係が綻び始め、人間不信の森(フォレスト)へ迷い込む。1月12日放送スタート。毎週日曜22時15分~、ABCテレビ・テレビ朝日系。