失敗を恐れずトライ&エラーできる。こんな贅沢な現場はありません。
「私自身は牛歩で周りの景色が変わっていっている感覚です。ただ、ひと口に演劇と言ってもすごくいろんな形態があるんだなということを知れたことはよかったし、今は楽しくて仕方ないです。井の中の蛙でいてはダメなんだなと実感して、劇場の大小やジャンル関係なく、今はとにかくいろんな面白いところに飛び込んでいきたいと思っています」
その那須凜さんの新たなチャレンジは、KAAT 神奈川芸術劇場とスコットランドを拠点に世界的に活動している劇団ヴァニシング・ポイントとの共同制作による舞台『品川猿の告白 Confessions of a Shinagawa Monkey』。じつは2022年から携わってきたプロダクションだ。
「そのときには、まさかこんなに長期にわたるプロジェクトになるとは思ってもいませんでした。ただ、海外の方々とやることで、日本とは違う演劇へのアプローチ方法を学ぶことができるのが楽しかったんですよね。でも去年の6月にスコットランドで約2週間ワークショップがおこなわれて“もしかしたらこれが作品になるのかも?”って(笑)」
作品のベースは、村上春樹の品川猿を題材にした2本の短編小説。軽いウォーミングアップを全員でおこなっていたところから、そのまま猿の動きをしてみたり。原作の中の一場面を即興でやってみたり。クリエイター陣と俳優が、さまざまなことを試しながらアイデアを積み上げ、共に作品づくりをしていく欧米スタイルの創作がおこなわれている。
「日本では出来上がった台本を渡されて、それに沿って稽古して、約1か月間で舞台を作り上げるんですが、時間が足りないなと思うことが多いです。それでどうしても、間違えないようにとか、迷惑をかけないように、という方向を選択してしまう。でも、今回のような創作スタイルだと、失敗することを恐れずに何度でもトライ&エラーを繰り返せる。こんな贅沢なことはないなと」
原作の物語は、山奥の旅館を訪れた主人公が、温泉の番をしている品川猿と名乗る猿と出会い、言葉を交わすことから始まる。
「演出家のマシュー(・レントン)さんは、村上春樹さんの現実世界じゃない無意識下の、抽象的な世界の中のリアリティみたいなものをすごく好んでいらっしゃるんですね。今回の舞台では、日本人俳優が日本語で、英国の俳優が英語で会話していきます。もちろん客席には字幕が出ますけれど、その言語の違いを気にすることなく、自然と会話に入り込んでいけるようなものを模索しています。まだどうなるかわからない未知の恐怖はありますが、俳優としてクリエイションの本質をやれていることが嬉しいし、根拠はないけれど、なぜか“絶対に面白いものになる”という確信があるんですよね」
PROFILE プロフィール
那須 凜
なす・りん 1994年10月12日まれ、東京都出身。劇団青年座に所属。2018年の舞台『砂塵のニケ』に主演し注目される。’22年には読売演劇大賞で杉村春子賞を受賞。近作に、舞台『破門フェデリコ~くたばれ!十字軍~』、ミュージカル『イザボー』などがある。
INFORMATION インフォメーション
日英国際共同制作 KAAT × Vanishing Point『品川猿の告白 Confessions of a Shinagawa Monkey』
ある旅行者が山奥にある寂れた旅館で、温泉の番をしている猿と出会う。そんななか、若い女性が自分の名前を忘れるという事件が起こる。ふたつの出来事がいつしか絡み合い…。11月28日(木)~12月8日(日) KAAT 神奈川芸術劇場 大スタジオ 原作/村上春樹(短編「品川猿」「品川猿の告白」より) 原案・構成・演出/マシュー・レントン 出演/那須凜、サンディ・グライアソン、伊達暁ほか 一般6500円 神奈川県民割引5850円 24歳以下3250円ほか プレビュー公演あり。チケットかながわ TEL:0570・015・415(10:00~18:00)