「ずっとファンタジー作品が好きで、とんでもなく大きな石造建造物を中心にした物語を描きたかったんです。巨大な塔を上るほどに危険が増す設定は、読者にワクワク感を与えられるだろうと思いました」
弐瓶勉さんの本作は、魔術師によって“竜の塔”に連れ去られた王女の救出に向かう近衛戦団の、迷宮探索物語。設定自体はファンタジーの王道だが、スタイリッシュな絵柄が独特の世界観を生み出している。
「王道ってやっぱり多くの人が一度は通った道なので共感しやすいだろうし、だからこそ、どこにひねりを加えるか、新しい要素をどう組み込むかを考えるのが楽しいんです」
近衛戦団の人員を補うために召集されるのが、控えめで力持ちなのが取り柄の、農夫の青年ユーヴァ。
「ユーヴァは、普通の人が実は持っている可能性を表現したかったんです。彼は腕力を自慢したり、目立とうとするわけじゃないけど、何か内に秘めたものがある。自己表現が下手な主人公が、ほどほどに頑張る姿を描いてみようと思いました」
魔物を撃退しながら塔を上っていくものの、王国から近衛戦団に撤退命令が出る。そして弓使いのエリクォ、魔法使いのリリセン、ユーヴァが任務を続行することに。大人数でも手強い魔物たちや罠だらけの迷宮を、足並みの揃わない“新米3人”がどう攻略していくのか。
「ユーヴァの無垢さ、エリクォのある程度の冷静さ、リリセンの強気な性格が補完し合って、チームとして成長する様子を描ければと思っています。全体としては、読者が想像する余地を残すことが大事だと考えていて。重要な謎は少しずつ明らかにしつつ、まだ見えていない部分を丁寧に隠していく工夫をしています」
描き手としてのファンタジーの醍醐味はどういったものなのだろう。
「一番の魅力は、現実では経験できないことを描ける自由さだと思います。子どもの頃に夢中になったおとぎ話の続きを、大人になってからも追いかけられる感覚が好きですね。現実の制約を超えた世界を作りつつ、そこに普遍的なテーマや感情を込めることで、読者に『自分だったらどうするだろう?』と想像してもらえるような物語を目指しています」
じわじわと核心に近づいてきた感のある3巻だが、この先もまだまだお楽しみが待っていそうだ。
「今後はユーヴァたちの成長だけでなく、塔に潜むさらなる謎や彼らが直面する大きな試練に焦点を当てていきます。新たな仲間や敵との出会い、予期せぬ裏切りや塔に隠された驚愕の秘密など、さまざまな展開を構想していることはしています!」
PROFILE プロフィール
弐瓶 勉
にへい・つとむ マンガ家。1995年、『BLAME』がアフタヌーン四季賞で谷口ジロー特別賞を受賞。代表作に『BLAME!』『バイオメガ』『シドニアの騎士』『人形の国』など。
INFORMATION インフォメーション
『タワーダンジョン』3
王が殺され、王女は天から降りてきた巨大な建造物“竜の塔”に連れ去られる。ユーヴァたちは王女を救出できるのか。謎が謎を呼ぶ迷宮探索ファンタジー。講談社 759円 Ⓒ弐瓶勉/講談社