大手テレビ局の報道番組の現場を描いた舞台『ザ・空気』。放送直前に上層部から圧力がかかり、迷走するテレビマンたちの姿が展開される。
「僕が演じるのは、番組の編集長の役。ジャーナリストとしての誇りは一応持っているんですけれど、番組を放送するために小さなことには目をつぶるのもやむを得ないと言ってみたり、かと思えば、やっぱり真実を報道すべきだって言い出したり…。いろんな人の板挟みになって、主張を二転三転させたりするような男。駄々はこねるけど、周りに迷惑がかかるからこの辺で折れたほうがいいのかな、って流されてしまうところは、多分に自分ぽいです(笑)」と田中哲司さん。
作・演出の永井愛さんが描くのは、圧力やトラブルを恐れるあまり、現場に蔓延していく自粛ムードだ。
「永井さんは、セリフとセリフの間に“空気”が満ちるとおっしゃっています。例えば、抗議の電話を受けた後に、それぞれが後ろに大きな権力や大勢の人間の存在を“空気”で感じ取ったり。そこに、それぞれの複雑な人間関係が覗いたりもして。永井さんのセリフは、口にして触りがいいんです。そして、展開するうち、ふとサスペンス的な怖さを感じさせたりもします。ただ、暇があればセリフばっかり覚えている僕にとっては、政治も世相もまったく疎いジャンルですし、考えることは永井さんにお任せして、セリフを入れることに専念しています」
穏やかで知的な雰囲気からか、「とにかくよくしゃべる役が多い」という田中さん。今回も「放送業界の難しい専門用語をペラペラしゃべる」役。でもじつは、「あまりしゃべるのが得意じゃない」のだとか。「『浮標(ぶい)』という舞台(4時間の上演時間の多くが田中さん演じる主人公の一人語り!)をやってから、どうやらできる役者だと勘違いされているようで…。
毎回、新しい作品に臨むたびにドキドキですし、共演の方が予想外の出方をされると、すぐに小さくパニクります(笑)。今回はとくに初共演の方が多いので、どんな芝居をされるのか予測がつかないことばかり。でも、そのハラハラも含めて、今度の4人のような素晴らしい方々とセリフで絡めるのが楽しいですね」