傑作と呼ばれるミュージカルには、当然のことながら名曲が多い。あのスーザン・ボイルが有名になるきっかけをつかんだ「夢やぶれて」は、『レ・ミゼラブル』の曲だし、某ビールのCMでおなじみの「ONE」は『コーラスライン』だ。単にドラマを盛り上げるだけじゃなく、一度聴いたら耳から離れないキャッチーさもあるから劇場を後にした時に思わず口ずさめて、舞台の余韻に浸らせてくれる。
『RENT』もまた、そんなミュージカルのひとつ。しかもこの作品のすごいのは、耳に残るメロディがひとつじゃないというところ。かつて缶コーヒーのCMソングにも使われたゴスペル調の「Seasons of Love」は紛れもない作品を代表する曲だけれど、タイトル曲である「RENT」のロック調のリズムは冒頭から舞台を盛り上げるし、セクシーでパワフルなダンスを踊りながら歌う「Out Tonight」のカッコ良さといったら…。この他にも、ディスコやR&B、タンゴなど、さまざまなタイプの曲が詰め込まれているものだから、一度触れるとあらゆる感覚が刺激される、クセになる作品なのだ。
この『RENT』がオフ・ブロードウェイの小さな劇場で初演されたのは1996年のこと。そこから瞬く間に人気を獲得してブロードウェイの大劇場に進出し、世界各地で上演されるミュージカルになったのも、それだけ楽曲に中毒性がある証拠。ただ、世界中にレントヘッドと呼ばれるほどの熱狂的なリピーターのファンを生み出し、次から次へと刺激的な新作が生み出されるいまもなお多くの人から熱い支持を受けているのは、素晴らしい楽曲に加えて、国や人種、文化の違いを超えたシンプルで強いメッセージがストレートに届くから。
舞台に登場するのは、ニューヨークのダウンタウンに暮らすボヘミアンたち。金がなく、あるのは夢と志だけ。そんな彼らが、巨大資本による権力、差別や偏見、そしてHIVという病といった世の中のあらゆる理不尽に対して立ち向かっていく。彼らのようなアーティストじゃなくても、彼らほどに貧しくなくても、深刻な病にかかっていなくても、自分の思い描く生き方とどうにもならない厳しい現実との間で悩んだり迷ったりしたことのある人ならばきっと共感できるし、苦しんだり傷ついたり、打ちのめされたりしながら、それでも戦おうとする姿に励まされるはず。
今回は、初演から20周年を記念してのアニバーサリーツアーカンパニーが来日。ファンの間で話題なのは、初演時大絶賛されたオリジナル演出で上演されるということ。というのも、この20年間で『RENT』は少しずつ演出が変わっていて、いま初演の演出で観られるのはかなり貴重なため。とくに傑作と評判の高い初演版だけに、この機会に絶対観ておきたい。