ダークだけど笑いや爽快感があって、エンタメなのが松尾作品の魅力です。
「松尾さんの演出する作品に出演できるのは嬉しいです。ただ、前回と前々回にフクスケを演じられていたのが阿部(サダヲ)さんで、年齢も性別も違う私が、阿部さんのようなエネルギーを出せるのか、プレッシャーを感じています」
このキャスティングは松尾さんたっての希望だったそう。
「なぜ私だったのかはまだ聞けていません。ただ、セリフの中に“中二病”という言葉が出てきますし、今回は、フクスケが14歳の少年であることをより強調したかったのかな、と。そこを拠りどころに、今は頑張っているところです」
薬剤被害で身体障がい児に生まれたフクスケは、製薬会社の御曹司ミスミに長い間監禁されてきた。
「人と違う体で生まれて変態の手で育てられて…。当初は世の中への恨みが強いのかと思っていたら、フクスケは自身が周りと違うことに誇りを感じていて、世界に抗って生まれてきた反逆児だと言うんです。演じていて面白いんですけど、松尾さんからいろんなセリフの言い方や動きを提案されるので、とにかく今はやってみているという感じで…」
そう話しながらも楽しげな笑顔。
「松尾さんって、私に役の感情のことを言ってくださるのは、私とふたりのときなんです。でも、動きだったり振り付けのことだったりは、稽古中のみなさんが一緒のところで面白いことをおっしゃる。瞬発的にやって生まれる化学反応みたいなものを見ていて、感情のことは後でひとりで考えられるようにということなんでしょうね。考える力と瞬発力とが同時に鍛えられている感じがして面白いです。あと、松尾さんの作品って、舞台美術の細やかさも転換の技術もすごいんです。いま稽古場に仮のセットを立てているんですが、そのセットを見て、おお~っとなりました(笑)」
フクスケを演じてきた阿部さんは今回コオロギ役で出演。「稽古場で見ていても一番エネルギーを感じる」とは岸井さんの阿部さん評。
「私は、今もまだ松尾さんの作品に出られることが嬉しくて興奮しちゃってる状態ですが、阿部さんや皆川(猿時)さんはドラえもんみたいなんです。阿部さんはポケットから次々違う武器を出すし、皆川さんはたくさん鞘を持っていて、いろんな出し方をしてくる。自分の四次元がいかに狭いかを感じます。でも、みなさんすごく楽しんでいますし、私も楽しまなきゃと思っています」
世間ではタブー視されるものをあえて取り上げ、人間の歪さを露悪的なほどに容赦なく描き出す。そのシニカルな視点は、安っぽい同情やヒューマニズムなど寄せ付けず圧倒的パワーを持って迫ってくるが、それでいながらどこか切なさや人間賛歌を感じさせるのが本作の魅力だ。
「すごくダークな題材にもかかわらず笑いや爽快感があって、エンタメに昇華してくれている感じがするんですよね。あと、登場人物それぞれに境遇や背景が濃く描かれています。フクスケに限らず、いろんな障がいや事情を抱えた人が出てきますが、みんな同じ世界にいるんだって感じていただけたら嬉しいです」
COCOON PRODUCTION 2024『ふくすけ2024―歌舞伎町黙示録―』 盲目の妻サカエ(黒木)に歪んだ愛情を抱くコオロギ(阿部)。彼が警備員として勤める病院に、薬剤被害で頭部が肥大して生まれ、長く監禁されて育ったフクスケ(岸井)が入院してきて――。7月9日(火)~8月4日(日) 新宿・THEATERMILANO‐Za 作・演出/松尾スズキ 出演/阿部サダヲ、黒木華、荒川良々、岸井ゆきの、皆川猿時、松本穂香、伊勢志摩、猫背椿、宍戸美和公、内田慈、町田水城、河井克夫、菅原永二、オクイシュージ、松尾スズキ、秋山菜津子ほか S席1万2000円 A席9500円 Bunkamura TEL:03・3477・3244(10:00~18:00) 京都、福岡公演あり。https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/24_fukusuke/
きしい・ゆきの 1992年2月11日生まれ、神奈川県出身。最近の主な出演作に、ドラマ『大奥 Season2 幕末編』など。10月には出演映画『若き見知らぬ者たち』の公開も控える。
ピアス¥66,000(himie TEL:03・5485・1277)
※『anan』2024年7月10日号より。写真・小笠原真紀 スタイリスト・藤井牧子 ヘア&メイク・根本亜沙美 インタビュー、文・望月リサ
(by anan編集部)