大事なテーマや問いかけが、たくさんある作品です。
「大学で演劇学を学んでいたんですが、シェイクスピアは必ず通る道なんですよね。400年以上前の作品がこうして今もいろんな座組で上演されているのは、作品の中に、その時代時代によって大事なテーマや問いかけがたくさんあるからだと思うんです。ふたりの姉は父親から、どれだけ自分を愛しているか語るよう言われ、すごく流暢に父親への愛を語るけれど、三女は口下手でうまく言えない。これって今の日本では“忖度”の物語として受け取れたりもしますよね。そういう社会への投げかけもありつつ、いろんなものを削ぎ落とした先に、真実の愛とはなにかという普遍的なテーマもあって。時代が変わっても人の心は変わらないから、今と通じるところがあると感じてもらえると思います」
何度も上演されてきた戯曲ではあるが、注目すべきは演出をイギリス出身の演出家、ショーン・ホームズさんが手がけるというところ。日本ではこれまで3作の舞台を手がけているが、そのいずれも、斬新さだけではない現代にしっかりリーチした解釈を加えつつ、観客の想像力を刺激する演出が話題になった。
「偶然にも3作とも観ているんですが、なかでも姉と一緒に観に行った『セールスマンの死』は衝撃でした。舞台の真ん中に黄色い冷蔵庫が置かれている演出がされていて、帰りに姉とその演出の意味についてずっと話しながら帰ったくらい。どの作品も、答えは明示されないけれど、しがみついて考えを巡らせたくなる面白さがあるんです。ショーンさんが今回話していたことで印象的だったのが『リアは最後までみんなにとっての王様でいたかった人なんじゃないか』という言葉です。衰退する中でも自分のやってきたこととか、存在を信じたい。その人が正気を失っていく中で、周りがどう変化していくか注目してほしいです」
演じるのは三女のコーディリアだが、江口のりこさん、田畑智子さんという強烈な姉ふたりが顔を揃えた。
「コーディリアは正直ないい子ではあると思うけれど、頑固ですよね。その後、自分の国を離れてフランス王に嫁ぐとか、すごく意志が強くて信念を曲げない人なんだろうなと。江口さんは、役をご自分に引き寄せながらも説得力を感じさせてくださる方。田畑さんとは共演経験は少ないですが、初めましてのときから安心感がありましたから、おふたりについていけば大丈夫だと、勝手に謎の安心感を抱いています(笑)」
幼い頃に舞台に魅了されこの世界に入った上白石さんだけに、「舞台は自分の原点みたいな場所」だという意識もあり、大事にしているそう。
「私はお稽古の時間がすごく好きなんです。映像の現場は、つねに完成されたものを出していかなくてはいけない場ですし、役者さんには役者さんの哲学があって、監督には監督の、撮影の方には撮影の方なりの哲学があって、現場でその足並みを揃えていく難しさを感じます。舞台は、時間をかけてゼロからみんなで作っていけますから、稽古の中で意見がぶつかっても、みんなで同じ方向を向いて進んでいきやすい。その一体感とか、そういう想いも一気にお客様にぶつけられるところもスリルがあって好きなんです。人の体と心ってどんどん変化していくので、作品もどんどん進化していくけれど、お客様に向けてつねに変わらないものを見せていく責任もあって。つねに課題があるからこそ挑戦したくなるんですよね」
PARCO PRODUCE 2024『リア王』 老齢から退位を決めたリア王(段田)は、3人の娘に、自分への愛情が深い者に領土を与えようと告げる。姉たち(江口、田畑)が美辞麗句を並べる中、実直さゆえ想いを言葉にできない末娘のコーディリア(上白石)は父王の怒りを買う。3月8日(金)~31日(日) 東京芸術劇場 プレイハウス 作/ウィリアム・シェイクスピア 翻訳/松岡和子 演出/ショーン・ホームズ 出演/段田安則、小池徹平、上白石萌歌、江口のりこ、田畑智子、玉置玲央、入野自由、前原滉、盛隆二、平田敦子、高橋克実、浅野和之ほか マチネ1万1000円 ソワレ1万円 U‐30チケット5500円(観劇時30歳以下対象)ほか サンライズプロモーション東京 TEL:0570・00・3337(平日12:00~15:00) 新潟、愛知、大阪、福岡、長野公演あり。
かみしらいし・もか 2000年2月28日生まれ、鹿児島県出身。主な出演作に、ドラマ『パリピ孔明』『義母と娘のブルースFINAL』、映画『羊と鋼の森』など。adieu名義で歌手としても活動中。
ジャケット 参考価格¥64,900 ワンピース 参考価格¥52,800 タンクトップ 参考価格¥42,900(以上GANNI customerservice@ganni.com) イヤリング¥13,200 リング¥18,700(共にIRIS47/フーブス TEL:03・6447・1395)
※『anan』2024年3月13日号より。写真・野呂知功(TRIVAL) スタイリスト・道端亜未 ヘア&メイク・渋沢知美 インタビュー、文・望月リサ
(by anan編集部)