植物を定点カメラで撮影すると一粒の種子が芽を出し、根を張り、花を咲かせるさまは実にダイナミック。「植物と歩く」というタイトルには、こうした植物の営みのそばで共に過ごすという意味が込められているとか。“花”“草”“木”をテーマにした作品が並ぶ中、見どころの一つが放映中のNHK連続テレビ小説『らんまん』の主人公のモデル、牧野富太郎博士の植物図。学芸員の木下紗耶子さんはその特徴をこう話す。
「牧野は植物の特定の個体を写実的に描くというより、その種の典型・標準型を描くことを追求していました。全形図だけではなく解剖図も描き込むなど、植物を分類する上で必要な情報を余さず伝える工夫が随所に凝らされています。植物学の知識を持たない人にとっても目を見張るものがあり、植物を深く探究する執念が伝わってきます」
展示作品の制作期間が1910年代から2020年代にわたる中でも、新しいアプローチを採用しているのが倉科光子の「ツナミプランツ」シリーズ。東日本大震災の津波の浸水域をフィールドワークし、土壌の流動によって以前はその地で見られなかった植物を描く。発見場所の緯度経度だけを記したタイトルが、小さな雑草と現実世界をつないでいるようだ。このように植物を描くという行為は同じでも、描き手によって異なる顔を見せる植物の世界。一つ一つ、その扉を開けてみませんか?
牧野富太郎 「ホテイラン」(東京帝国大学理科大学植物学教室編纂『大日本植物志』、第一巻第四集、第一六図版) 1911年 紙に多色石版印刷 個人蔵
倉科光子 《37°33'22"N 141°01'31"E》 2015‐2020年 水彩紙に透明水彩 作家蔵
須田悦弘 《チューリップ》 1996年 岩絵具・木 練馬区立美術館蔵 ©Yoshihiro Suda / Courtesy of Gallery Koyanagi
「練馬区立美術館コレクション+ 植物と歩く展」 練馬区立美術館 東京都練馬区貫井1‐36‐16 開催中~8月25日(金)10時~18時(入館は17時半まで) 月曜(7/17は開館)、7/18休 一般500円ほか TEL:03・3577・1821
※『anan』2023年7月12日号より。取材、文・松本あかね
(by anan編集部)