毒物混入事件で疑心暗鬼になる人々。犯行よりもどす黒い思惑が交錯する。
「コロナ禍でも強く感じたのですが、恐怖と不安に駆られると、声の大きい方に引っ張られてしまう人は多いですよね。その人はどうにもならない事情を抱えているのかもしれないと、出来事の背景を自分の頭で考えて判断すればそこまでひどい事態は起きないはずなのに。正義や良心が暴走することの危機感を抱きます」
有名な心理実験(看守役はどんどん強権的になり、囚人役はどんどん卑屈になったといわれる「スタンフォード監獄実験」)がモチーフになった本作は、閉鎖的な町の様子を監獄に喩えたプロローグから幕を開ける。良くも悪くも人間関係が濃い田舎町だからこそ、過去のトラブルや事件が掘り返され、ちょっとしたなりゆきで容疑者は変転。第一章で毒物混入事件は決着を見たかに思えたが、第二章で様相はがらりと変わり、怒濤のどんでん返しが始まる。
「第二章を、第一章の10年後にするのはプロットの段階から決めていました。過酷な状況で育った子どもは、大人になったときにどういう道を選ぶのかを書きたかったので」
実際、重苦しいストーリーの中で、語り手の仁美や幼なじみの涼音、修一郎が、終始、優しさや誠実さを失わないことは救いだ。
「同調圧力に屈していく大人と対照的な存在として、彼女たちが一種の清涼剤のようになってくれたらと思いました。特に仁美は、不器用な恋愛要素も含めて、一度は自分の弱さに負けてしまうのだけれど、その間違いに気づける人物でもあります」
これまでにも実在の事件を下敷きに、いわゆる悪女にフォーカスした作品を書いてきた美輪さん。
「社会を揺るがすほどの犯罪が起きると、『なぜこんな事件が起きたのか』と原因や背景が気になってしかたがない。女性が関わっているならなおさら、感情の赴くままに行動できる人物への興味は尽きないです」
『私たちはどこで間違えてしまったんだろう』 主役級からモブ的な人物まで、描写のリアリティが秀逸。美輪さんがこれまで書いてきたイヤミスとは一線を画する読後感の良さも魅力だ。双葉社 1980円
みわ・かずね 東京都生まれ。青山学院大学卒。2010年「強欲な羊」で、第7回ミステリーズ!新人賞を受賞し、小説家デビュー。『ウェンディのあやまち』『暗黒の羊』など著書多数。
撮影・大泉美佳
※『anan』2023年4月19日号より。写真・中島慶子(本) インタビュー、文・三浦天紗子
(by anan編集部)