「洋服を縫ったり刺繍をしたり、手芸は好きなのですが、編み物だけは難しそうだと敬遠していたんです。ところが3年くらい前に、私自身が帯状疱疹ですごくつらい思いをして。マンガも描けないし寝るのさえ苦痛。思い切って編み物に挑戦してみたら、痛みを忘れられるほど集中してしまうことに気づいたんです」
ニットセラピーという言葉もあるくらい、欧米では心身への良い効果が認められているという。
「自分と向き合える時間が持てるのが編み物のいいところ。編んでいるうちにモヤモヤが吹っ切れたり、頭を切り替えられたりするんです。健斗や類だけでなく、コスプレ好きで衣装作りが得意な金子天馬(てんま)やお菓子名人の織武蓮(おりむれん)、先輩たちにもみな悩みを背負ってもらって、手芸を通して変わるきっかけをつかむ。そういう物語にしていきたいですね」
2巻に入り、手芸部には顧問がつく。マッチョ体型の数学教師・大同(だいどう)は、〈あみぐるまーパピ〉としてこっそり動画投稿しているような手芸好き。手芸部員たちと触れ合い、素直に行動してみようと決める。
「部員は全員若いので、大同先生には、大人ならではの考え方や大人だからこその悩みみたいなものを語ってもらいたいなと思ったんです」
実際、健斗は最初、自分の不器用さに辟易しているのだが、バス待ちのベンチでまだ正体のわからなかった大同から〈不器用はいいことだ/できなかったことができるようになる喜びは格別だ/それを人よりたくさん味わえる〉と語りかけられ、大きく背中を押されることになる。
「周りに編み物を勧めると、ちょっとやって『不器用だから無理』と拒否されることが多いんです。でも、どんなことでも、最初から失敗せずにできると思うのが変でしょう。名言みたいに聞こえるかもしれませんが、『失敗を怖がらずに何でもやった方がいいよ』と逃げ道を塞ぐ気持ちで考えたセリフです(笑)」
読んだら、マンガだけでなく、編み物にもハマるかも!? 巻末には、編み図のおまけ付き。
猫田ゆかり『ニッターズハイ!』2 2023年刊行予定の3巻では、陸上への思いを再燃させた健斗がニット愛を深めた今、どう向き合うのかを軸に描かれるそう。部員らの変化にも期待。KADOKAWA 704円 ©Yukari Nekota 2022
ねこた・ゆかり 1984年、愛知県生まれ。2013年にちばてつや賞に入選。同作で商業誌デビューし、その7年後を描いた『SAKURA TABOO』で初連載。
※『anan』2022年7月20日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子
(by anan編集部)