「一篇一篇が独立した話の短篇集を読むのがすごく好きで、自分でも書いてみたかったんです」
と、寺地はるなさん。そんな希望が叶ったのが、新作作品集『タイムマシンに乗れないぼくたち』だ。
「書き終えて、どれも孤独な人の話になったなと思いました。孤独や不幸って“その程度ならたいしたことない”などとランク分けされがちですが、比べる必要はないんじゃないかと感じていました」
他人から理解されなかったり、疎外されている人々が登場する本作。巻頭の「コードネームは保留」は、心の中で“自分は殺し屋”などと設定を作っている女性の話。
「現実に向きあって生きるのは正しいと思いますが、やり過ごす方法があってもいいかなと思うんです」
表題作は古生代好きの少年が博物館でお喋りな男と出会う話だ。
「子どもの頃って学校と家がすべてだった。別の世界があるんだって知る話にしようと考えました」
他の短篇でも、主人公が接点のなかった相手と交流を持ったり、相手の意外な一面を知る場面が描かれる。
「相手を深く知ったり親しくなったりしなくても、幸せを願うことはできる。それくらいの関係が書けたらいいなと思いました。ちょうど森川すいめいさんという精神科医の『その島のひとたちは、ひとの話をきかない』という本を読んだんです。そのなかに、人間関係がわりと希薄な街の話があって。仲良しになる一歩手前の関係があるのっていいなと思ったので、その影響もあるかも」
他には、見下していた隣人に対する見方が変わる話や、いつも誰かの人生の脇役的存在になる女性を主人公にした話、変人扱いされる叔父を持つ青年の話など。また、「深く息を吸って、」は自身が書いたエッセイが出発点にあったという。
「中学生の頃にリヴァー・フェニックスが好きだったことを書いたら、編集者に“これで短篇を書かないか”と言われて。個人的な思いが強すぎてなかなか書けなかったんですが、“きみ”という人称を使ってやっと書けました」
好きなものについてからかわれ、周囲に理解されずにいる少女に語りかける文体は、孤独を経験した人の心にも深く響くはず。自分を励まし、他人が愛おしくなる一冊だ。
『タイムマシンに乗れないぼくたち』 著者初の短篇集。同世代の同僚と馴染めない女性や、友達ができない少年ら孤独な人々が、ちょっとした視点の変化を迎える姿を描き出す。文藝春秋 1650円
てらち・はるな 2014年「ビオレタ」でポプラ社小説新人賞を受賞してデビュー。’20年、若手芸術家に贈られる「咲くやこの花賞」、’21年『水を縫う』で河合隼雄物語賞受賞。著作に『ガラスの海を渡る舟』など。写真提供・読売新聞社
※『anan』2022年2月9日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・瀧井朝世
(by anan編集部)