昨年、短編集『スモールワールズ』で話題をさらった一穂ミチさんが長編『パラソルでパラシュート』を上梓した。大阪で暮らし、お笑いが好きな一穂さんらしい題材の一冊。
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「何年か前から漠然と、芸人さんを書きたいと思っていたんです。当事者としての芸人さんを描くのは難しいので、彼らを外側から見ている主人公にしました」

大阪の企業の受付で働く29歳の柳生美雨(やない・みう)が出会ったのは、売れない芸人の矢沢亨。彼や、彼と古い一軒家に暮らす芸人仲間や、亨の相方の弓彦との交流が始まって…。

「漫画の『じゃりン子チエ』が好きなんです。癖の強い人がたくさん出てきて、みんな自分勝手でクール。あの他者との距離感が私にとってすごく心地いいので、ああいう感じを自分でも書きたかった」

美雨は30歳になると仕事の契約が切れるが、この先、特にやりたいこともなく、結婚願望もない。

「目指すものがあって頑張るのは素晴らしいけれど、目標がないと人間として何か欠落しているように語られてしまうのは息苦しい。もうちょっと、ふらふらしたり、ゆっくり考えて決める自由みたいなものがあってもいいなと感じています」

舞台で漫才をやりたいだけの亨をはじめ芸人たちの人生観もさまざま。

「大会を目指す人もいれば序列をつけられるのが馴染まない人もいる。厳しい状況の中でみなさん自分の道を模索されていると思います。ただ、彼らにしてみたら、30歳になったからなんやねん、結婚せんかったらなんやねん、という感覚ですよね」

亨が漫才やピンのネタを披露する場面も描かれる。これがどれも、笑いと哀愁がまじって秀逸な内容。

「苦しみながら考えました(笑)。大阪の人って悲しいことでも笑いにくるんで自分を守るところがある。だから、自然とそういうニュアンスになったんだと思います」

このタイトルにしたのは?

「昔、鳥人間コンテストで、飛べるわけがないのに傘だけ差してぴょんと湖に飛び込んだ人を見た記憶があって。それが素敵な映像として私の中で残っています」

気を楽にして、ぴょんと飛んでみよう、そんな気持ちになれる本作。「窮屈な結末にはしたくなかった」という美雨の1年間を見届けて。

『パラソルでパラシュート』 美雨が勤める企業は、受付で働く契約社員は30歳で退職する決まりだ。29歳の誕生日、彼女が出会ったのは売れないお笑い芸人の青年で…。講談社 1760円

いちほ・みち 2007年『雪よ林檎の香のごとく』でデビュー。昨年『スモールワールズ』が直木賞、山田風太郎賞の候補、収録された短編「ピクニック」が日本推理作家協会賞の候補となり話題に。

※『anan』2022年1月12日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・瀧井朝世

(by anan編集部)

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