
小島秀夫の右脳が大好きなこと=○○○○⚫︎を日常から切り取り、それを左脳で深掘りする、未来への考察&応援エッセイ「ゲームクリエイター小島秀夫のan‐an‐an、とっても大好き○○○○⚫︎」。第36回目のテーマは「小島秀夫氏絶賛!」です。
小島秀夫氏絶賛!
“観る映画”を決める際、決め手になっているものは? 予告編? 興行収入? ネット情報? レビュースコア? “購入する本”を決める時、決め手になっているものは? 書店のおすすめ? ベストセラー順位? 読書メーターなどのレビュー?
本に関していえば、僕は帯を見て購入を決めることが多い。それは無名の作家、贔屓にしている巨匠の新作にも当てはまる。作者、タイトル、あらすじ、装丁、解説を見て、興味があれば手に取る。次のステップは、購入するかどうか。最後に頼るのは、やはり帯に書かれた“推薦コメント”だ。その内容もさることながら、重要なのは“誰が薦めているか?”だ。信頼のおける作家や書評家のお薦めなら、間違いはない。最後まで読んでもいないのに、他人に書かせて名前だけを載せている芸能人や著名人もいるという。「誰々さん、絶賛!」とかは、まさにこれだろう。本の帯だけではなく、映画コメントにもそれは当てはまる。ただ、そういう人たちばかりではない。映画や本を心から愛する人たちが少なからずいる。彼らは純粋に面白い作品を応援したいだけだ。そういった真摯なコメントと出逢うことが大切だ。つまりは、自分の感性に合った相性のいい推薦人たちを見つけることなのだ。そうすれば、ハズレを引く回数は減り、生涯の作品に出逢う可能性は上がる。
僕も推薦コメントを依頼されることが多い。映画や書籍、漫画。たまに音楽も。ここで誤解を解くために言っておきたい。映画も本(漫画)もコメント料は微々たるものだ。クリエイティブをしながらの作業は、正直、時間調整が大変だ。勿論、全てを受けているわけではない。僕が気に入ったものだけをコメントしている。
僕の映画コメントが最初に掲載された時のことは今でも憶えている。アレックス・プロヤス監督の『ダークシティ』(1998)だった。当時、某雑誌に映画紹介のコラム“コジマシネマ”を連載していた。そのため、試写会によく出入りしていた。いつものように試写会場を出ようとすると、宣伝担当の方から呼び止められた。『MGS』の発売後であり、映画紹介の連載もしていたので、映画好きの僕のことを認知してくれていたのだ。プロヤス監督のファンであり、『ダークシティ』に惚れ込んだ僕は、喜んで引き受けた。当時はネットではなく、コメントは単独で、大手全国紙の新聞夕刊に大きく掲載された。コメント内容は正確には覚えていないが、「この映画は、SFの歴史に名を残すだろう 小島秀夫」。そんなコメントだった。ところが、興行は不調、わずか数週間で上映は終わった。今では、カルト作品として世界中から愛されているが、最初の僕のコメントが皮肉な結果に終わったのが、トラウマにもなった。
時間のない中、どうやってコメントを書いているのかというと、映画の場合は既に観る前から、あらかたの方向性を頭の中で準備している。以前は試写会に出かけるしかなかったが、これだと業務への負担が多い。コロナ禍以降は、オンライン試写が増えたので、帰宅後にオンラインで観ることが可能になった。まずは、前情報のない状態で楽しむ。映画の進行に合わせて、頭の中で方向性を修正していく。映画を観終わった時点で、伝えたい内容は完成している。移動中にiPhoneでメモ書き。翌朝、それを左脳で文章に起こす。出社後も事実確認、校正をしてから提出。コメント書きは全てiPhone内で完結。一方、書籍の場合は、かなり厄介だ。まだ本になっていない原稿を読む必要がある。プルーフ(注1)という仮製本されたものや、校正前のゲラ(注2)が送られてくる。映画と違い、書籍の長さは、まちまちだ。上下巻ともなると、読み終えるのにかなりの時間を要する。趣味の本や企画用の読書を一度、止めなければならない。
コメントを書く際には、二つの狙いを掲げている。一つ目は、まず“興味を持ってもらう”こと。そのため、誰にでもわかるような簡単な単語を使い、わかりやすい文章を作る。難しい漢字や難解な熟語も使わない。「最高傑作!」「人を選ぶ作品だが、私は好き」みたいな表現もアウト。ジャンルを含め、内容や世界観が誰にでもわかるように書く。もう一つは、映画を観た、本を読んだ後に、“もう一度見ると、意味が違って見える”こと。コメントに触れた時と、観た後、読んだ後では、作品への理解度が変化する。実は作品の核心を表現していたのがわかるという、二度美味しいコメントを目指している。
とはいえ、配給会社や出版社の思惑もある。たとえば「関心を狭めてしまうような表現、たとえば“ボディ・ホラー”とは書かないで」「ミステリーとして売りたいので“SF”とは書かないで」というふうに制約がある。全文がそのまま載ることは珍しい。映画では一部分を抜粋したものが掲載、全文はWebにまわされる。本の帯では削除された部分は、裏面に掲載される。表は「小島秀夫氏絶賛!」とされ、コメント全文は裏に回されるのだ。
僕が最も重要視しているのは、“最初の発見者”でありたいということ。まだ誰もが知らない作品。誰の感想も評価もない、雑音のない状態。誰よりも先に傑作を、才能を見つけたい。それを応援、拡散したい。映画も公開前に観たい。書籍も発売前に読みたい。字幕のない映画を海外の映画祭や、製作者から直接送って貰って観るのもそういう理由からだ。他人の評価に左右されず、自分の感覚だけで味わいたい。これをやりたいがために、面倒なSNSを継続し、コメント書きをしているのかもしれない。
書籍での面白い例を紹介したい。ニッチな単行本のコメントを頼まれたとする。帯を書いた作品が、じわじわと話題になり、人気が高まってくる。すると出版社は、より広く拡散しようと、別のメジャーな有名人のコメントに入れ替える。さらに、誰もが知っている芸能人や著名人のコメントに置き替えられる。これは本好きのコア層からスタート、徐々にライトな層へと広げていくという戦略。文庫化の際には、一周回って、僕のコメントが再収録される。これはこれまで送り続けてきた全てのターゲット層を再び網羅するため。『三体』『プロジェクト・ヘイル・メアリー』(注3)、『異常【アノマリー】』とかの歴代の帯や書店のPOPを見直していただくといい。
ここで、今年の初めに書いた小説『瞬きすら許さない』(注4)の帯コメントを紹介したい。
小島秀夫氏絶賛!
アシモフの名作『鋼鉄都市』は、ロボットとバディを組む未来警察小説だった。本作で主人公が組むのは、人工知能捜査体(エイド)ロック。“AI恐怖症”を抱えた現代人(あなた)は、AIと“バディ”になれるのだろうか!? この設定は、もはやSFではない!
これからの未来を生きる人類の為のミステリー必読書!
注1:プルーフ 書籍の出版前に出版社が書評家や書店関係者などに送る、正式な製本前の見本版。
注2:ゲラ 出版物の印刷前に、文字や写真のチェックを行うために出校する試し刷り。
注3:『プロジェクト・ヘイル・メアリー』 アンディ・ウィアーによる2021年刊行のSF小説。あらすじとSF作家コメントの帯で発売の後、感想ポストをきっかけに小島のコメントを採用した帯に変更しバズる。そのほか著名人コメント帯も話題に。その後、星野源やライムスター宇多丸などもラジオで絶賛。現在も映画公開に合わせたビジュアルカバーなどへと変遷し、累計発行部数を伸ばしている。
注4:『瞬きすら許さない』 東京創元社から出版された、イギリスのジョー・キャラハンによるミステリー小説。
今月のCulture Favorite

12月10日に行われた「ディオール バンブーパビリオン」プレビューイベントにて、新木優子さんと。

2月23日の「DEATH STRANDING Strands of Harmony World Tour」横浜公演にて、指揮者の栗田博文さん、ボーカリストのYoshさん(Survive Said The Prophet)、歌手のナン・サティダさんと。
Profile

小島秀夫
こじま・ひでお 1963年生まれ、東京都出身。ゲームクリエイター、コジマプロダクション代表。1987年、初めて手掛けた『メタルギア』でステルスゲームと呼ばれるジャンルを切り開き、ゲームにおけるシネマティックな映像表現とストーリーテリングのパイオニアとしても評価され、世界的な人気を獲得。世界中で年間最優秀ゲーム賞をはじめ、多くのゲーム賞を受賞。2020年、これまでのビデオゲームや映像メディアへの貢献を讃えられ、BAFTAフェローシップ賞を受賞。映画、小説などの解説や推薦文も多数。ゲームや映画などのジャンルを超えたエンターテインメントへも、創作領域を広げている。

PC版『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』が発売中!
小島秀夫監督が編集したロンチトレーラー“No Rain, No Rainbow”
写真・内田紘倫(The VOICE)
anan 2488号(2026年3月18日発売)より

















