かつての自分たちは間違いなく尊い。そのうえで現行の価値観を表現したい。
DJ松永(以下、松永):このアルバムのテーマを考えるってなった時にRさんがまず言っていたのが、自分たちが書いてきた過去の曲に対してアンサーを返すとか、ケジメをつけたい、みたいなことだったんです。俺はそこにすごく共感して…。とはいえ、『たりないふたり』(’16)とかの自分たちは間違いなく尊いし、そういうものの延長線上に今があるので、否定しようとは思わないんです。ただ、その頃のキャラクターで語られることが多いところは、更新したいと思っていました。
R‐指定(以下、R):振り返ると、Creepy Nutsとして動き始めた頃には思ってもいなかったようなところに今は来ているし、考え方も変わっている部分があります。“この表現、今の俺から見たら一方的すぎる”とか。そういうところに対してアンサーしたいと思っていたんですけど…結局はしきれませんでした。それはその時の俺が必死で言っていたことだし、やっぱり否定できるほど自分は変わっていないんですよね。良くも悪くも。そういう過去の自分の加害性みたいなものも理解したうえで、新しい表現をしていくしかないなと。そんな変化が「デジタルタトゥー」とか、いろんな収録曲に表れていると思います。
――今作には、バラエティ番組のテーマソングや映画の主題歌など、タイアップ曲も多数収録されている。
R:タイアップ曲って“縛られる”みたいな見方もあると思いますが、俺の場合は、一個お題があるうえで自分のことを書けるから、新たな引き出しを開けてもらえるような感覚です。それがどんぴしゃで自分の変化と重なったのが、「Bad Orangez」(ゲーム「A.I.M.$」のキャラクターテーマソング)かな。
松永:俺は既発のタイアップ曲以降、このアルバム用に新たに作った曲で、引き出しが開いた気がします。
R:覚醒期がありましたもんね。
松永:3か月ぐらい前に曲を作るのが楽しくてしょうがない、みたいな病気にかかって、仕事中も早く家に帰って曲作りたいとか、曲を作りたくて寝たくないって思っちゃったんですよね。自分の“かっこいい”の価値観の幅が広がるのが楽しくて。
R:「Lazy Boy」で、今の俺らの忙しさを表現しようってなった時に、6~7曲デモを送ってくれたのが始まりかも。“より取り見取りやん”って思ってたら、それから週に1個、1日に2個とトラックがくるようになって…。あの時の松永さん、めちゃめちゃ頼もしかったです。
――前作、前々作とミニアルバムが続いていたが、今作はタイアップ6曲を含む全11曲のフルアルバム。
R:タイアップの既発曲でも俺らの形は示していたんですけど、あとちょっと言い足りないとか、いま言っとかんと鮮度が落ちてしまう、みたいなところがあって、この曲数に。
松永:リリックは現状を書くわけだからね。過ぎ去ってしまうと“もう変わっちゃって”って書けないこともあるだろうし、逆に「15才」みたいに過去に書いたものに現状が追いついてくパターンもあると思う。
R:そうですね。「15才」は3年前に15歳の頃の自分に宛てて書いた曲なんですけど、あの時よりも今歌うからこそ完成された感じがします。
松永:Rさんのリリックには、今回も震えました。ほんとすいません、ありがとうございます!
R:おちょくってるよな?(笑)
松永:いやでも真面目な話、自分で書いた歌詞じゃないけど、一生背負えるなって思えますからね。似通った価値観の人間が毎日のように一緒にいると、考えることはほぼ同じ。歌詞読んでわかるって思うし、自分の中で言葉になっていない感情を、Rさんが言ってくれたから気づけたっていうこともいっぱいあります。
――そんな本アルバムは、3形態でリリース。その一つが、曲の間にトークが挟まる“ラジオ盤”。近年の恒例で、ファンも楽しみにしているこの内容について聞いてみると…。
松永:ラジオ盤を収録した時は、まだアルバムが全くできていない状態で。それなのに曲振りをしているっていう訳のわからないことになっていて(笑)。そのドキュメントです。
R:未来の俺たちに託すしかないというか。今はできていないけど、未来の俺らならきっとやってくれているはず、という期待を込めたトークを楽しんでもらえたらと(笑)。
フルアルバムとしては約3年ぶりとなる『Case』はR‐1グランプリのテーマソング「バレる!」など全11曲収録。【Tシャツ盤】¥5,500 【ライブBlu‐ray盤】¥5,500 【ラジオ盤】¥3,300(ソニーミュージック)
クリーピーナッツ MCバトル日本3連覇のラッパー・R‐指定(左)と、世界一のターンテーブリスト・DJ松永(右)からなる。’17年メジャーデビュー。ニッポン放送『Creepy Nutsのオールナイトニッポン0(ZERO)』、テレビ朝日『イグナッツ!!』にレギュラー出演中。
DJ松永さん・シャツ¥30,800(ウィザード/ティーニー ランチ TEL:03・6812・9341)
R‐指定さん・カットソー¥14,300(リベーレ/フォーティーン ショールーム TEL:03・5772・1304)
※『anan』2021年9月8日号より。写真・内田紘倫(The VOICE) スタイリスト・鹿野巧真 取材、文・保手濱奈美
(by anan編集部)