日常の出来事に寄り添う言葉や表現に惹かれます。
「本の良さは、正解とか不正解がないところ。生身の人と向き合おうとすると、世の中の普遍的な考え方だったり、相手の気持ちについ合わせてしまいがちになるけれど、物語の中だと、どんな登場人物がいてもいいし、内容だって自由でいい。そういう窮屈さから解き放たれる感覚が心地いいんだと思います」
物語の持つ魅力について、こんな言葉で語ってくれた玉城ティナさん。幼い頃から多くの本に親しんできた彼女とって、読書は「自分一人で完結する穏やかな時間」なのだそう。
「ポジティブになりたいとか、勉強のためとか、目的を持って読んでいるわけではないんです。むしろ女友達の代わりというか、そういう適度な距離感で向き合っているイメージです」
セレクトしてくれたのは、江國香織さんの詩集を含む4冊。
「派手なストーリーがあるというよりも、日常に寄り添ってくれるような作品が好きです。なかでも江國さんの作品は上京した時からずっと読んでいて。普通の生活の中に描かれるちょっとした違和感や秘密めいた感情に惹かれるのかもしれません」
最近は文芸誌でコラムを執筆するなど、書き手としても幅広く活躍している玉城さん。最後に、自身の言葉について大切にしていることを聞くと…。
「かっこつけないことですね。頑張りすぎている文章って、『自分の言葉じゃないな』と思われたりしますし、作られた言葉でないほうが相手の心に届くような気がしています。全部が真実である必要はないけれど、核となる言葉はなるべくシンプルで嘘がないほうがいい。私自身、そういう文章をこれからも書いていきたいなと思います」
『とかげ』吉本ばなな
「文章はやわらかいのに、ストーリーはどちらかというと棘があるような印象が強かったです。“癒し”を題材にした物語と解説にはありますが、一般的にイメージするような癒しではなく、他人に認められるとか、人間の本質に対する癒しなんだと最終的には感じました。私は、過去に秘密を持つ女性の物語『大川端奇譚』という短編がお気に入りです」
【内容】
心に刻まれた痛みを抱えながら生きてきたカップルの再生の物語「とかげ」ほか、6編のショート・ストーリーを収録。¥430 新潮文庫
『そっと 静かに』著・ハン・ガン 訳・古川綾子
「この本の中で私がいちばん共感したのは、『沈黙を好む人も音楽的な人だ』という文章。いつでも爆音の中にいる人にだけ音楽的なセンスがあるわけでは決してなく、沈黙の中で自分のリズムを養っている人もいるのかもしれない、などと考えながら読んでいました。歌についての本なのに、題名が『そっと 静かに』なのも素敵です」
【内容】
2005年に韓国で最も権威ある文学賞を受賞した、『菜食主義者』の著者、ハン・ガンが紡ぎ出す音楽のエッセイ集。¥2,200 クオン
『風の歌を聴け』村上春樹
「いまや日本を代表する作家・村上春樹さんの原点という意味でも興味深い作品ですし、あの村上さんでさえデビューは30歳だったそうで、私ももっと頑張らなきゃなと、勇気づけられたりもしました。もしご本人にお会いする機会があれば、執筆されていた当時のお話や文章に対するこだわりなどをぜひ聞いてみたいです!」
【内容】
1979年に発表された、作家・村上春樹のデビュー作。海辺の街に帰省した〈僕〉の青春の一片を乾いた軽快なタッチで描く。¥450 講談社文庫
『すみれの花の砂糖づけ』江國香織
「恋愛の詩が中心ですが、女の人の色っぽさとか、でも決して弱くない感じが表現されていて好きですね。それに、いい意味で『そうだよね。じゃあ、いっか!』と投げやりになれる感じもあって。江國さんの詩を読んでいると、急にどこか遠くに連れていってくれるような感覚になるので、何かから逃げたい時に手に取ってみるのもおすすめです」
【内容】
〈すみれの花の砂糖づけをたべると/私はたちまち少女にもどる/だれのものでもなかったあたし〉。著者の初の詩集。¥630 新潮文庫
たましろ・てぃな 1997年生まれ。沖縄県出身。原作・岡田麿里、漫画・絵本奈央の大ヒット漫画を実写化した主演ドラマ『荒ぶる季節の乙女どもよ。』(TBS系)が放送中。
ワンピース¥68,000(EAUSEENON/SUSU PRESS TEL:03・6821・7739) シューズはスタイリスト私物
※『anan』2020年9月23日号より。写真・小笠原真紀 スタイリスト・松居瑠里 ヘア&メイク・今井貴子(ツクリバ) 取材、文・瀬尾麻美
(by anan編集部)