大学院を修了しても知識を活かす場や安定した仕事がない…。高学歴ワーキングプアの問題は、昨今日本でもよく耳にする。そうした状況はティファンヌ・リヴィエールさんが暮らすフランスをはじめ、海を越えた世界各国でも若い学生や学者たちを悩ませている。そんな院生の苦難と悲哀のあるあるを詰め込んだバンド・デシネ(BD)をブログで発表。書籍化されたのが『博論日記』だ。

世界中の大学院生が共感した、アカデミズムという砦の不条理。

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「自伝ではないのですが、自分の経験からインスピレーションは受けて描きました。主人公のジャンヌは典型的な文学系院生像。25歳くらいの女性で、研究への情熱もあるけれど、論文を読んでもらうために指導教官に関心を持ってもらわねばならず、一握りの院生以外はあまりに理不尽な状況に直面します。それをブログにしたら、ジャンヌに起こる出来事に対して最初はみんな笑ってくれました。でも彼女のつまずく落とし穴の数々が、さらに暗い世界へと繋がり、気が滅入ってしまう。それは私も経験したことです」

研究ばかりのジャンヌに、恋人のロイックは愛想を尽かし、ふたりの関係はギクシャクしていく。

「こうした経験は女性の院生だけでなく男性もしていますし、それに関する研究もあります。博論を書いていると強迫観念にかられ、終わらせるために狂信的になってしまう。パートナーにはしんどいんですよね」

フランスでは、院生の3分の2は博論中にパートナーと別れるという統計もあるそう。高学歴の問題だけでなく、夢をあきらめられない人にも当てはまりそうだ。

「女性の抱えるもっとも大きい問題は子ども。育児が始まると、女性のキャリアは狡猾に着々とゴミ箱に捨てられていく。基本的に男女平等のフランスでも珍しくないことです」

マンガは独学で身につけた。

「博論が終わりかけのころ、両親の結婚30年のお祝いに、兄妹で一緒にマンガを描いたんです。家族間であったエピソードなどを描いただけなんですけれど、それにものすごくハマってしまった。暇があればそれしかしなくなり、ついには博論そっちのけで心を奪われていきました。同じお金を稼げないのなら、バカみたいに研究するより自分のしたいことを全力でしようと(笑)。10年もの間、著名な文芸作品の書き方を研究してきたことが、私がマンガを描くのに役立っています」

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『博論日記』 作・ティファンヌ・リヴィエール 訳・中條千晴 カフカの博士論文を3年で書き上げることを目標に、希望を抱いて院生生活に踏み込んだジャンヌだったが…。女性のキャリア形成の難しさにも通じる必読BD。花伝社 1800円 ©Editions du Seuil、中條千晴、花伝社

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ティファンヌ・リヴィエール BD作家。フランス生まれ。自らの博士課程体験を軸に本作を発表。英、中など8言語で出版。ブログはhttps://lebureau14delasorbonne.wordpress.com/

※『anan』2020年7月22日号より。インタビュー、文・三浦天紗子

(by anan編集部)

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