不文律はやがて人心を縛る枷に…。タワマンが、現代の因習村になるとき。小説『ぬひんさまの塔』

小説『ぬひんさまの塔』の作者、綿原 芹さんにインタビュー。


都会なら合理的で自由だというのも幻想ではないのかなと

「因習村のホラーは一つの人気ジャンルとして私も大好きなんですが、パターンもかなり出尽くしていますし、最近では、人間を恐ろしいものとして描く舞台を田舎に押し付けるのは乱暴ではないかという議論もあります。ならば、因習が生まれる構造そのものを都会に持ってきたらどうなるかなと考え始めたんです。タワマン文学が流行るくらいには、住民同士の格差やヒエラルキーが語られる場所なわけで、ホラーとの相性の良さを感じました。ふだんから、見聞きした気になるトピックやワードをスマホにメモしておく習慣があるのですが、本作では、実際にあったとあるマンションの自治騒動もヒントになりました」

綿原芹さんの『ぬひんさまの塔』は、イメージの虚を突く作品だ。主人公の清那は、30歳で都心のヴィンテージマンションを購入、憧れのタワマンオーナーになった。高揚感いっぱいで入居したものの、実は奇妙なルールが住人に課されており、早々に水を差される出来事が続く。

「作中に出てくる、変な人が入れないように来客は申告制だとか、当番制で朝晩〈ぬひんさま〉という土地の神様にお参りするなどは、最初はみんなが住みやすくなるためのルールだったはずです。それがやがて、“ルールを守ること、守らせること”が目的になってしまう。きっかけがあってというより、地続きにすり替わっていって、誰も気づかないまま行き詰まっていく。そうやって閉鎖的な共同体は生まれていくと思うし、都会なら合理的で自由だというのも幻想ではないのかなと」

ぬひんさまとはどんな神様なのか。低層階の住人というだけで軽視されるのはなぜなのか。そして夜中の下駄の音や変な気配は何なのか。読者もまた、清那が抱いている違和感を一緒に味わうことになる。その清那の助っ人となるのが、隣人の桐村浩輔だ。霊能力を持つ彼の外見は、意外にも〈冴えない中年〉。

「ただし、中年男性には“必ず哀愁があってほしい”という自分のこだわりは桐村に託しています(笑)。霊能者って一般的に有能な美形を想像しがちですよね。それはそれでステキですけれど、ちょっと逆を張ってみました。人は見た目だけでは測れないところもたくさんある。そこはデビュー作から続いている、私なりのテーマなのかもしれません」

Profile

綿原 芹

わたはら・せり 作家。福井県出身。2025年、「うたかたの娘」で第45回横溝正史ミステリ&ホラー大賞〈大賞〉〈カクヨム賞〉をダブル受賞し、デビュー。本作が2作目となる。

『ぬひんさまの塔』

黒い風車が全戸のベランダに挿してある不気味さ。低層、中層、高層という3つの章でそれぞれ違うホラーみを味わえるのもゾクゾク。

KADOKAWA 2145円

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写真・ 中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子

anan 2514号(2026年10月7日発売)より
Check!

No.2514掲載

上質なご自愛。

2026年10月07日発売

たまには自分をいたわり、ゆったりとした時間を過ごしたいもの。忙しない日常で疲れた心と体をリセットするための、ちょっと上質なご自愛のアイデアを集めました。

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