毎日3歳の息子タロウの幼稚園の送り迎えに徒歩で片道1時間以上かけ、保護者たちと雑談をし、家事にいそしむ日々。読者からすれば好奇心旺盛な息子と一緒に公園で草花を眺める時間はとても豊かに思えるが、妹子は考える。家事や育児に賃金は発生しない。むしろ自分は時給マイナスの男なのでは――?
専業主夫が考える育児、お金、仕事。ミクロな視点で身近な新・経済小説。
「同世代の作家が世界で活躍して大きな仕事をするなかで、私は子どもの保育園に落ちて、2人目も生まれて、行動範囲が狭くなってました。自分の世界が小さくなっていることが悔しかった。それで、その小ささを極めようと思ったんです」
妹子の日常は、ほぼ著者ご本人の現在のそれと同じなのだとか。
「私は金にうるさいので(笑)、幼稚園の送り迎えのこの時間にエッセイ1本書いたら何万円になるのかと考えてしまう。だから“経済小説”を書こうと思いました。経済というとマクロなことを思いがちですが、100円200円の経済だってある」
ご自身と重なる主人公を男性側にしたのは、
「私は男女に差はないと思っているので、普段は主人公の性別は意識していません。ただ、今回は理由があります。ネットなどでは、女性のほうが収入が高いと、男性が“ヒモ”と呼ばれて貶められる。それを見かけて、すごく腹が立っていたんです。私は男性の多様性を肯定したい」
妹子の主夫の日常に対する考察、タロウとの緩やかな時間、妻のみどりとの気づきに満ちた会話……彼らの関係の豊かさに感じ入りながらも、今の社会について考えさせられる。
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こうした小説はもちろん、『ブスの自信の持ち方』などのエッセイでも、フラットなものの見方を提示してくれているナオコーラさん。ご自身も生きにくさを感じているというなか、理想と思える社会は?
「誰もが自分のやりたいことを仕事にできる社会。もちろん、主夫のような賃金の発生しない仕事も含めて、です」
社会派作家になりたい、とナオコーラさん。その身近で公正な社会の見方・考え方に注目していきたい。
やまざき・なおこーら 1978年、福岡県生まれ。2004年『人のセックスを笑うな』で文藝賞を受賞しデビュー。小説に『美しい距離』『趣味で腹いっぱい』ほか、『母ではなくて、親になる』などエッセイも人気。
『リボンの男』 育児をしたくて専業主夫になった小野常雄。でも、子どもと野川沿いの道を往復する毎日に、ふと不安と疑問を抱くこともあって…。河出書房新社 1350円
※『anan』2020年2月19日号より。写真・土佐麻理子(山崎さん) 中島慶子(本) インタビュー、文・瀧井朝世
(by anan編集部)