人気イラストレーター・大島智子さんの初マンガ作品『セッちゃん』は、彼女の絵柄の特徴といえるアンニュイな表情をした女の子が、イラストの世界観そのままに淡々と「生きて」いる。
大島智子

「マンガを描くことに憧れはあったのですが、自分はできないと思っていました。だけど2010年頃に最初の2ページをなんとなく描いたメモが残っていて。これを膨らませてみることになったんです」

その最初の2ページというのが、衝撃的だ。血だらけで横たわっている、セッちゃんという大学生の女の子と、椅子に座って呆然としているあっくんという男の子。要するにセッちゃんが死んでしまうところから物語は始まっているのだが、読者は「一体なぜ?」という思いを抱えて彼女の人生へと入り込んでいく。

「セッちゃんは誰とでも寝てしまうのですが、メンヘラとかビッチっていう言葉には当てはまらない子にしたかったんです。でもセッちゃんみたいな子を受け入れられない人も多いと思うので、あっくんにその気持ちを代弁してもらったら、嫌なヤツになってしまいました(笑)」

動物的で周囲から浮いているセッちゃんに対して、あっくんは他人に興味がなく、打算的なタイプ。本来は接点がなさそうなふたりが、ある事件を機に肩を寄せ合うことに。

「イメージしたのは、3.11直後の東京でした。原宿に遊びに行ったらデモに巻き込まれてしまった経験があるのですが、今までと違う街の感じが印象に残っていたんです」

あのときデモにのめり込む人もいれば、その流れについていけない人もいた。共に何かに流された結果なのだろうが、セッちゃんたちを見ていると、非常時でも生活そのものはなくならないし、人はそう簡単に変わらないことを思い知らされる。

「坂口安吾の小説を読んでいると、戦争中だけどいろんな男の人と遊んでいる女の人が出てきたりして、なんだか楽しそうなんですよね(笑)。そういう人を当たり前の存在として描きたかったんです」

セッちゃん

一からマンガを描く方法がわからないからと、まず小説の形にしてからマンガに描き直したという本作。

「次回作のことはまだ何も考えていません。物事を真剣に見ないとマンガは描けないと感じたので、まずはちゃんと生きたいと思っています」

『セッちゃん』誰とでも寝てしまう女の子・セッちゃんと、誰にも興味を持てない男の子・あっくん。交わらないはずのふたりのかけがえのない時間を描いた心にしみる物語。小学館 1000円 ©大島智子/小学館

おおしま・ともこ イラストレーター、映像作家。2010年からイラストを元にしたGIFアニメをTumblr上に公開し始める。’17年に初めての作品集『Less than A4』を発表している。

※『anan』2019年1月30日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子

(by anan編集部)

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