ピンクのドレス、おかっぱ 頭、そしてメガネ。お揃いポイントが三拍子そろったこの二人。姉妹になって約10年、気がつけば国民全員の“親戚のおばさん”のような立ち位置になりました。なぜだか分からないけれど、そこにいるだけで面白い。他の女芸人とはまったく違う雰囲気を漂わせるお二人の、愛らしい素顔に迫ります。
――改めて伺いますが、お二人は本当の姉妹ではないんですよね?
美穂:うふふふ…。
江里子:ちょっと、うふふふ、じゃないわよ美穂さん。違います、赤の他人です、顔がそっくりなだけです(笑)。
――30代中頃からお二人で芸人として活動されていると伺っていますが、そもそもの出会いは?
江里子:もともと20代前半の頃に劇団の養成所で知り合ったんです。お互いにそれぞれ、何か面白いことがしたいと思ってオーディションを受けて、養成所に入っていたんですが、なんか似たような顔の人がいるな、と。
――劇団ということは、女優志望だったんですか?
江里子:ええと、特にそういうわけでもなく…。
美穂:だからといって、お笑いがしたいわけでもなく…(笑)。
江里子:私たちが入った養成所を持っていた劇団は、お笑いと演劇の境をいってるようなところがあったんです。なので私は、幅広く面白いことを学べる場所なのではと思い、そこを受けたんですよね。
美穂:私はなんかこう、ぼんやりと、ちょっと演劇とかできたらいいなぁっていうか。先のことはあんまり考えてなかったですね。
――その頃から、お互いに運命の人だという感覚はありました?
江里子:いえいえ。最初はあんまりしゃべってなかったわよね。
美穂:養成所に入って半年過ぎた頃にちょっと話す機会があって、好きなお笑いとか、芝居の趣味が似通ってたから、意外と気が合う人なのかしら、と思ったのか…。ま、顔も似てますし。
――その頃お互いに、どんなお笑いが好きだったんですか?
美穂:私はつぶやきシローさん。
江里子:え?! シティボーイズさんじゃないの?
美穂:あ、そうだった(笑)。
江里子:忘れないでよ(笑)。でも、美穂さんのほうがなんとなーく、お笑いに関しては図抜けたものがある感じはしてましたけどね。私にジャイアント馬場さんの写真を送りつけてきたりとか…。
――え、どういうことですか?
江里子:それは養成所を出てからの話なんですが、バイト中に時間が余ったみたいで…って、仕事中に時間が余ること自体おかしな話なんですけど、よく時間つぶしに手紙を書いてたんですよ、美穂さんが。それである日、手紙に「今日は良いおまけが入っているぞ」と添え書きがあって。見たら、雑誌から切り抜いたジャイアント馬場さんの写真が(笑)。
――美穂さん、それはどういう意図だったんでしょうか…。
美穂:お姉さんだったら、その面白さを分かってくれるかしら、というのがあったんです。
――江里子さんの反応は?
江里子:電話で「いいわね」とか伝えてた気がします(笑)。
美穂:で、「あ、分かってくれたわ」って(笑)。
――養成所を出たあとは、別々に活動されていたんですか?
江里子:私は別の養成所に入ったり、大学の友人と演劇をやったりしてたんですが、美穂さんは友人とお笑いトリオを組んでたわよね。
美穂:そう。<らくだかばん>ね。
――すごい名前ですね…。
美穂:それで、人力舎さんの新人オーディションを受けたりして。
江里子:私それ、応援に行ったの覚えてるわ。確かそのオーディション、1対1の対戦型だったんだけど、負けたわよね。
美穂:負けた負けた。ダブルスコアくらいで負けたわね(笑)。それで、一人が辞めたいって言い出して、解散(笑)。
――そしてお二人は姉妹に?
江里子:いえいえ(笑)。まだそのあと紆余曲折があるんですが、まあそこは端折らせていただいて…。美穂さんが<らくだかばん>の頃から私は阿佐ヶ谷に住んでまして、美穂さんがよく遊びに来てたんです。それである日、町内の鰻屋さんで鰻を食べているとき、店主の方に「そんなに似ているなら、阿佐ヶ谷に住んでいるよく似た姉妹ってことで、何かやったらいいじゃないの」とお声がけいただいたんです。私は「そんな話がありました~」とブログに書きつつ、半分冗談で、「せっかく名付けていただいた阿佐ヶ谷姉妹、呼んでいただけたらなんでもやりま~す」と書いたら、「お笑いライブ、出る?」と誘われまして。それが阿佐ヶ谷姉妹のスタートですね。
美穂:私は、「1回だけだったら」というつもりだったんですけど。
江里子:由紀さおりさんと安田祥子さん姉妹がトルコ行進曲を歌われているんですが、それを延々歌う、というオマージュネタをやったんです。4分の持ち時間だったのに、のんびりしてて、結果8分。
――それがウケて、今に至る、ということですか?
江里子:ウケたかは…。
美穂:そうねぇ、ウケてはいなかったと思う…(笑)。
江里子:みなさん、クスクスしてましたね。なにこの変な人たちっていう意味の笑いは起きてた気はしますけど(笑)。
美穂:常に私たち、流動的なんです。コンセプトを話し合う、とかまったくないですし…。
江里子:ピンクのドレスを着たのも、由紀さおりさんと安田祥子さんがピンクのドレスを着ているビデオを見たからっていう…。普通の格好でもよかったんですけれど、そうすると本当にただの地味なおばさん二人組になってしまって、誰だか分からないのではと不安で。名前が少しでも浸透するまでは…と思ってたんですが、まさか11年もこれを着続けるとは(笑)。
美穂:昔は私たち、普段もピンクなんて全然着なかったのに。
江里子:このぼんやりとした感じのピンクが、ちょうどいいのよね。
美穂:中身が地味だから、落ち着くのよね(笑)。
――お二人の笑いは、体を張るでもないし、激しいボケとツッコミでもない、他の芸人さんたちとは違うオリジナルな芸風だと思います。うまく言えないですが、じわじわくる感じというか…。
美穂:そもそも私たち、お笑い向きの顔でもないですしね。なんていうか、ちょっとじっとりしてる。
江里子:あぁ、分かる。じっとりしてるわね、私たち。湿度が高い。
美穂:じっとり、じんめり(笑)。
江里子:あと、私たちがいた養成所で、私は“足さない笑い”というのを学んだ気がしていて。具体的にそう言われたわけではないんですが、諸先輩方の背中を拝見する中で、すごくそれを感じたんですよ。だから私たちのやってることって、派手さがないんです。もっと言うと、足し算の笑いの作り方が分からない(笑)。
美穂:明確なボケとツッコミではないから、そういう意味でもちょっとぼんやりしているのかも。天然の人と、たしなめの人がやってるから、あまりキツい感じにならないってことなのかしら。
江里子:た、たしなめ?
美穂:そう。お姉さんがたしなめ担当よ。
江里子:たしなめ…(笑)。まあ私たちって、いわゆる“おばさんあるある”的なことをやっていますが、おばさんたちをただぶった切るのとは違って、妹が好き勝手なことを言ってるのを姉がたしなめる形なんですよね。多少キツいこと言ってもお許しをいただいているのは、両方ともおばさんだし、姉妹だしってことがあるからな気もします。
美穂:実際一緒に住んでましたし、まあ今はアパートの隣同士の部屋ですけれども。でも私、お姉さんがいるおかげで、ちゃんと仕事ができてるなって思ってます。
江里子:やだ! そんな話初めて聞いたわ…。
美穂:だってほら、取材のとき、ちゃんとしゃべってくれますから。今日もそうですけど。
江里子:そこ?!(笑) でも、今回私たちの暮らしを題材にしたエッセイが一冊の本にまとまって、お互いのキャラクターが今までよりハッキリした気がしたわよ。
美穂:私は結構、日頃の鬱憤の原因になっているお姉さんの性質を暴露しましたし、そういう意味ではいいストレス発散になりました。
江里子:私も、美穂さんの暴露のおかげで、ありのままを書くしかないんだと腹をくくることができまして(笑)。でも自分と、そして美穂さんを客観的に見ることができた、良い機会だったと思います。
――拝読していて、日々もめ事はありつつも、なんだかとても幸せそうに暮らしている感じが、すごく印象的でした。
美穂:幸せ? どうかしら(笑)。
江里子:フフフフフ(笑)。でも確かに、ああでもない、こうでもないって小競り合うこともありますが、ごはんを一緒に食べたり、おしゃべりしながら一駅歩いたり。そういうお仲間がいることって、すごく幸せだなぁって思いますね。
美穂:幸せだけど、地味ね(笑)。
江里子:いいじゃないの(笑)。今20~30代の女性で、ひとりぼっちだと思っている人もきっといると思うんですが、おばさんになったら、こういう形の友情や幸せが待ってるかもしれないってことを知ってもらえたら…って、ちょっとかっこつけかしら(笑)。
美穂:いつか親や独り者のお友達と集まって、一つのアパートに住むのが私たちの夢なんです。その名も<阿佐ヶ谷ハイム>。そのために、仕事頑張らなきゃって。
――ということは、目指せ冠番組、とかですかね。
江里子:いえいえ、そういうことではなくて、日々健康で働ければ、と思ってます。
美穂:これからは健康が大事よね。
江里子:この間、健康のためのストレッチ特集みたいな番組に呼んでいただけて、すごく嬉しかったので、健康系のお仕事をいただけると嬉しいです(笑)。
美穂:そういうの、いいわね。人間ドック行く企画とかね。ぜひお待ちしております。
あさがやしまい 写真1枚目右・渡辺江里子(1972年生まれ、栃木県出身)、左・木村美穂(1973年生まれ、神奈川県出身)によるお笑いコンビ。‘07年に結成。バラエティ番組『とんねるずのみなさんのおかげでした』内で披露した由紀さおりと安田祥子姉妹の物まねで注目を浴び、ブレイクした。以降バラエティ番組での活躍はもちろん、江里子さんは女優としてドラマに出演することも。
※『anan』2018年9月5日号より。写真・内田紘倫(The VOICE) 取材協力・フルーツパーラー たなか
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