
小説『悪い血』の作者、鈴木涼美さんにインタビュー。
罪に対する罰を恐れる意識がどんなふうに生まれたかまで書きたかった
「もともと、真面目な人がバカを見るような社会に対して『納得がいかない』という感覚があるんですね。加えて、私自身、若い頃に奔放に生きて自分を粗末に扱ったりしてきた自覚はあって。当時はそこに自分を解放するための切実さもあったとはいえ、同時に、いつか過去を罰せられるという恐れのような、原罪意識をそれなりに抱えていたんだなと、妊娠中に気づきました。自分には幸福になる権利などないという感情を抱くこと自体陳腐だけれど、だからこそそのもっとも恥ずかしい部分を、SNSやエッセイではなくて“小説”で書きたいと思ったんです」
鈴木涼美さんの『悪い血』は、主人公の茜の妊娠がわかり、産院で血液検査を受ける場面から始まる。なぜ自分は「結婚や出産、幸福を忌避するような生き方を選んでいたのか」を考えるうち、検査に提出した自分の血液を取り返さなくてはいけないという焦燥感に駆られる。
「私も茜同様、妊娠以前から血液検査に忌避感が強くて。『こんなにいろんな数値が出たら、私の悪事は一つや二つ、バレるんじゃないか』みたいな怖さですね(笑)。ただ、性売買したとかそういう問題だけにとどめると意味が狭まるなと思ったので、幼少期にまで記憶が遡るような構成にして、罪に対する罰を恐れる意識がどんなふうに生まれたかまで書きたかった。実際には数段しかない階段から落っこちて、過去や妄想など変な世界に迷い込むわけですが、それは私が大好きな『不思議の国のアリス』の踏襲でもあります」
実は、鈴木さん自身の妊娠・出産をはさんでの執筆だったそう。
「実際に我が子が生まれてくると育児の現実が勝ってしまって、妊娠中に考えていた原罪だの後悔だの心の機微から遠ざかってしまい、この小説もファイルの底で眠っていました。子どもを少し預けられるようになったので書き留めておきたくて」
小説は何日か集中して書き上げるタイプだという鈴木さん。
「その生活のバランスを取り戻しながら何度も書き直して完成させた作品なので、自分から逃げたくなるようなタイミングで出合ってもらえて、何かしらの救いになれたら。新作を出すと毎回いろいろ感想をもらうんですけれど、この作品はすごく熱のこもった感想が多くて、届いているのかなとうれしいですね」
Profile
鈴木涼美
すずき・すずみ 作家。1983年、東京都生まれ。東京大学大学院の修士修了論文を後に『「AV女優」の社会学』として書籍化。『ギフテッド』など著書多数。本作は3度目の芥川賞候補に。
information
『悪い血』
妊婦の茜は出産への意志が固まらないものの刻々と産む方へと現実は動いていく。現実と過去と妄想とが入り交じる中、血を取り戻せるか。
文藝春秋 1870円
anan 2511号(2026年9月9日発売)より
































