
7月3日から開幕する舞台『セールスマンの死/ Death of a Salesman』で主演を務める、イッセー尾形さんにインタビュー。本作のみどころについて語ってもらった。
“笑い”こそ、認識される一番強い形だと思っています
70年以上前の戯曲ながら、今も世界中で上演され続ける『セールスマンの死』。本作の主人公・ウィリーを演じるイッセー尾形さんは「普段は一人芝居をやっていますが、以前出演した舞台『ART』がひどく印象に残ってまして」と、出演の理由をそう語る。その両作の演出を手がける小川絵梨子さんは、作品の本質を捉えた丁寧な演出で、演劇界で高く評価される存在。
「小川さんは台本をすごく細かく解釈して役者に手渡されるんです。受け取ったこちらも、そこに自分なりの解釈を加えていく。そうやって解釈が解釈を呼び、自然と作品が深くなっていく。入れ物が大きくなるぶん、こちらも自分の感情を総動員して臨むことになるわけですが、それでも足りないと毎回思わされます」
かつては敏腕セールスマンとして鳴らしたウィリーだが、60歳を過ぎ、今は見る影もない。時代に置いていかれた男の悲哀や競争社会の残酷さが浮き彫りにされてゆく。
「現実を見ない家族の話ではありますが、俺の人生はなんだったのかという問いに対する答えを、主人公が2日間にわたって探していく劇だと思うと、少し光が見える気がするんです。悲劇をただ悲劇としてやったところで、悲しい話だったねという感想で終わってしまう。お客さんに響くものにするには、作る側のこっちが、やりきれない展開に対して、笑わないまでも笑うような気持ちで臨むことが必要じゃないかと思っています。一回喜劇を通すことによって、悲劇が分厚くなり、お客さんにいろんなことを想像してもらえる気がしています」
笑いを通して悲劇を描く。それはまさに、イッセーさんが続けている一人芝居にも通じる。日常の中にいるさまざまな人々に擬態し、笑いを交えて演じながらも、最後にはどこかペーソスを感じさせる。
「僕は“笑い”こそ、認識される一番強い形だと思っています。笑えないものを認識してもらうには、たくさん言葉を必要とするけれど、笑いは一瞬で伝わる。だから自分の中で、最終的に笑えないものは未完成だと思っています。ただ、笑えるものを作るのはかなりハードルが高いし、いつまでやってもキリがない。それでも思いついちゃうんですよね。こんなことしたら笑ってもらえるんじゃないかな、って(笑)」
ならば、そのイッセーさんが、舞台に立ち続ける理由とは?
「舞台の場合、板の上に現れたものすべてをお客さんが受け取って、そこで自分なりの判断をするわけじゃないですか。それは一人芝居に限らず。その生き物と生き物とが対峙している感じが好きだし、生身のやり取りができるというのが大きいですよね。とくに、今みたいな時代には生の魅力を感じますよね」
Profile
イッセー尾形
いっせーおがた 1952年2月22日生まれ、福岡県出身。出演映画『メモリィズ』が現在公開中。一人芝居『イッセー尾形の右往沙翁劇場 2026』は、9月に東京、北海道で上演。映画『無用の人』は来年1月公開予定。
information

『セールスマンの死/ Death of a Salesman』
かつてはやり手セールスマンだったウィリー(イッセー尾形)だが、営業成績は落ちる一方。2人の息子たち(中島、竪山)も自立できず、精細を欠いた日々を送っているが…。
7月3日(金)~12日(日) 彩の国さいたま芸術劇場 大ホール 作/アーサー・ミラー 翻訳/小田島創志 演出/小川絵梨子 出演/イッセー尾形、中島裕翔、入野自由、竪山隼太、内藤栄一、松田佳央理、佐藤誓、長谷川初範、高橋惠子 S席1万2000円、A席9500円 大阪、愛知、富山、長野公演あり。チケットサイト
anan 2502号(2026年7月1日発売)より































