渋谷すばる「自分は歌いたいんだなってことにあらためて気づいた」

2024.9.21
繊細さと熱さを感じさせるまっすぐな歌は、そのまま渋谷すばるさんの人柄を思わせる。ソロとして歩み出して5年。新たにレコード会社と契約した今の想いに触れる。

取材現場に、渋谷すばるさんはほがらかな笑顔で現れた。インタビューの最後には、事前にこちらから送ってあった過去記事を見ながら「これ読んだんです。載せていただけて嬉しい」とも。纏っていた柔らかくリラックスした空気から、充足した“今”が垣間見える。

渋谷すばる

――10月16日にリリースされるニューアルバム『Lov U』はさまざまなクリエイターから提供されたラブソングを歌った一枚です。ソロになってからこれまでのアルバムはすべて自身の作詞・作曲・編曲だっただけにどんな想いがあったのかなと。

自分の曲だけにこだわっていたわけでもなくて。今回、新しい出会いがあって、新しい形でアルバムを作ることになって、みなさんに楽しんでもらえるか今は不安もありますけど。

――トイズファクトリーと契約しての第1弾。渋谷さんの意向はどこに反映されていますか?

とにかくファンの方に向けて楽しんでもらえる、喜んでもらえるものにしたいというコンセプトだけで、こんな曲がいいとか、こんなことをやりたいとかは一切…。

――誰に曲を作ってもらうかも?

言ってないです。みなさんどんな曲がいいですかって聞いてくださったんですけれど、逆に「渋谷すばるで好きに遊んでください」って感じでお伝えしました。

――今、新しい自分に出会いたいフェーズなんですか?

もともとずっと自分の中にそういう想いはあったんですけど、どうもそう思われなくて…。

――ご自身のこだわりが強そうなイメージはあります。

勝手にそんなことになってしまってて(笑)。もちろんこだわるところはありますけれど、必要以上にそう思われてる気はします。でも、そうでもないよってことがこのアルバムで伝わればいいし、こんなこともやるんだって知ってもらえたらとも思ってて。

――全曲ラブソングというのは?

自分ではラブソングのアルバムだとは思ってないんです。キャリアが長くなればなるほど、ファンの方々への感謝っていうのがより大きくなっていて。そういう方々にどう楽しんでもらうかってところから発想して。こんな歌を歌ったら喜んでもらえるかなというこっちの想いと、こんな曲を歌ったらどうですかっていうクリエイターの方々の想いとか集まったら、自然とラブソングとか、そういう曲が多くなったっていう。

――8月に先行配信された「人間讃歌」は、懸命に生きようとする人類すべてに向けた、まっすぐ大きな愛を歌った楽曲です。

1曲目に収録されている(9月18日に先行配信開始の)「君らしくね」もそうですけど、すごく僕らしい世界観を表現してもらえたなと。この2曲と…他のほとんどの曲の歌詞もmiccaさんという方が書いてくれているんですが、アルバムを作る際に僕の今までのストーリーをいろいろ話したうえで作ってもらったんです。自分じゃないフィルターというか、角度で書いてくださって、なんか新しい渋谷すばるを感じられたし、自分じゃないからこそできた表現もあって、聴いてくれる方にもいろんな楽しみ方をしてもらえるかなって思ってます。

――タイトルを聞いたときは渋谷さんの自作曲かと思いました。

そうなんです。歌っていても人の曲を歌っている感覚があまりなかったです。それぐらい深く僕の話を受け止めてくださったんだと思ったら、それも愛だなって。

僕はつねに全裸で歌っている感覚です。

――人が作った曲を歌うことで逆に、ボーカリスト・渋谷すばるに対する気づきはありますか?

いろんな曲を歌わせてもらってますけど、どんな曲でもやっぱり自分は歌いたいんだなってことにあらためて気づいたんですよね。自分の作った1曲以外は歌うことに徹したんですけど、それがすごく楽しかったんです。歌で表現する難しさや深さもあらためて感じて、自分自身とも向き合うことができたすごくいい時間でした。単純に歌うことが好きなんだって自覚したし、自分の中で歌がどれだけ大きな存在かも再認識できて。

――渋谷さんの歌って、うまく歌おうとか、かっこよく歌おうという自意識のようなものがなく、飾り気なくむき出しでこちらに届いてくる感じがするんです。なんであんなにまっすぐ届いてくるんだろうって考えていたんですけれど、歌うときにどんなことを意識されているんでしょうか?

物事を敏感に感じ取るタイプだからなのかもしれないです。楽曲を聴くと作った人の気持ちをダイレクトに感じるし。あと、アルバム制作に関わってくれた周りのスタッフひとりひとりの熱量も大きいかな。曲をいただいたら何回もたくさん歌い込むんですけど、レコーディングが近づいてくるとめっちゃ不安になるんですよ。いざレコーディングスタジオに入ると、そこにいる人たちの「いいものを作ろう」っていう想いみたいなものを感じてそれを自分なりに変換して歌の中に表現していこうってなる。うまく見せようとか、かっこつけようとか、考えたことがないんでわかんないですけど…そっちにはしたくないなっていうのはあるかもしれない。それをやれる人は他にいっぱいおるやろうし。だから僕はつねに全裸でやってる感覚です。全裸で歌ってる人ってあんまおらんと思うけど。

――全裸感覚となると、自分のすべてがさらされるわけで、恥ずかしさもあると思うんですが、それはどこかで克服されている?

…しんどいですよ。でもそうじゃないとアカンねやと思ってるところはあるかもしれない。それでここまでやってきていて、それ以外のやり方もわからへんし、そこをやらな俺じゃなくなるんやろうなとも思うし。

――先ほどおっしゃっていたレコーディング前に不安になるというのが意外でした。ここまでキャリアを重ねてきて、どんなことを不安に感じるんだろう、と。

これでいいんかなって不安かな。歌い込んでいるときって、自分ひとりでやってるだけやから、誰かが何かアドバイスしてくれるわけでもないし。年々、いいも悪いも誰も何も言ってくれへんくなるからね。その怖さ。自分ではわからへんくなるから、とにかく回数を重ねるしかないんですけど、大丈夫なんかなってずっと思ってる。

――そういう気持ちは、若いときからありました?

単純に、前までは周りにいっぱい仲間がいてみんなで答えを出せてた部分がたくさんあったけど、今はそうじゃないからね。もちろんチームで作ってはいるけれど、実際に歌うのは俺ひとりやし。だから誰かにめっちゃ言ってほしいんですよ。いろいろ。「よくないよ、それ」とかでもいいから。今、めっちゃ怒られたいもん。「ヘタクソ!」とか。

――さすがに「ヘタクソ」は言いづらいかと思いますが…。

言ってほしい。怒らへんから。

――アルバムに、戸惑いながら恋に踏み出す「First Song」という自作曲が1曲だけ収録されていますが、この曲を作ったときのことも伺いたいです。

このアルバムを作るってことが決まってから、そこに向けてなんとなく曲をいくつかストックしていたんです。ただその時期、しばらく歌詞が書けないモードが続いていて、この曲も歌詞をつけずに置いておいたんです。でもアルバムの制作が少しずつ進んでいく中でちょっとずつ自分の中で見えてきた部分があって、久々に吐き出したらこうなったって感じです。

――歌詞を書けない時期があるのと逆に、言葉を吐き出したくなる時期というのもあるんですか?

今は、逆に全然作れる感じなんです。でもちょっと前までは難しくて。…でもなんかやっぱちょっと恥ずかしいですね。自分の曲が1曲だけ入っていて…。

――何がそんなに…?

俺、何言うてんねやろって、なんかすごい恥ずかしいです。

――ここまでさんざんご自身の曲を歌ってきてますけど…。

(笑)なんやろ…やっぱプロってすごいなって。作詞家さんとか作曲家さんてやっぱすげえなっていうのを感じたんで。それはとても刺激になりました。自分のことをちょっと俯瞰することができて、いい経験になりました。

――今回、トイズファクトリーと契約されましたが、ここで新たな一歩を踏み出したのは、何か心境の変化があったのでしょうか?

こうなるんや俺、って自分で自分を面白がってる感じです。

――それはどういう…?

すべては人との出会いなんですよね。常々なんか面白いことできないかなとか、新しい表現ってことは考えてて、それがSNSのしょうもない投稿の場合もあるし。でも、自分でもまさかこんな大きな話につながっていくとは思ってもみなかったことで。

――グループからソロへ。ひとりという単位は、今のご自身にとってはどういうものですか?

何も変わってないんですよ。単純にグループでやってた人間がソロでやってる、っていうくらいの違いで。前はメンバーとああだこうだ言いながら考えて作っていたものを、今は話し合う相手がスタッフになったって違いくらいで。

――結構話し合うんですね。自分の世界観を貫くタイプかと…。

独立して最初のアルバムとかは、そういう部分がありましたが、バンドメンバーから意見をもらったりもありましたよ。ただ性格的に完璧主義者だとは思うんで、自分ではそこまでこだわってるつもりはないけれど、人から見たらすごいこだわりが強いってなるのかもしれないです。

――それでは、ここから新たなフェーズに入って、挑戦してみたいこととか考えていることは?

まだ全然。今も自分では思ってもみなかった状況にいるんで、なるようにしかならないかなって。またこれから新しい出会いがあるかもしれないし。音楽だけにこだわってるわけでもないんで、この先、なにか自分なりのエンターテインメントっていうのを作っていけたらと思っています。

しぶたに・すばる 1981年9月22日生まれ、大阪府出身。’96年に芸能界入り。2019年にソロアーティストとしての活動をスタート。同年にはアルバム『二歳』をリリース。現在までに3枚のアルバム、1枚のミニアルバムをリリース。ライブも精力的におこなっており、今年、アイナ・ジ・エンドや赤犬との対バンライブもおこなった。

トイズファクトリー契約後初となるアルバム『Lov U』が10月16日(水)にリリース。先行配信されている「人間讃歌」「君らしくね」を含む全12曲を収録。通常盤3300円のほか、MVの撮影風景やスペシャルインタビューなどを収録したBlu‐rayやフォトブックがついた初回生産限定盤6600円も発売に。

※『anan』2024年9月25日号より。写真・玉村敬太(TABUN) インタビュー、文・望月リサ

(by anan編集部)