社会のじかん

次世代電池の本命になるか!? 日本が世界をリードする“原子力電池”とは?

ライフスタイル
2024.05.26
意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「原子力電池」です。

日本が先行する分野。核廃棄物の有効利用になるか?

社会のじかん 堀潤

アメリカの惑星探査機「ボイジャー1号」は、昨年11月から解読不能な情報を送り続けていましたが、4月22日に5か月ぶりに解読できるデータを送ってきたことがニュースになりました。ボイジャー1号が打ち上げられたのは1977年。木星、土星、天王星、海王星などの惑星の鮮明な写真を撮って地球に送り、2012年には太陽系を出て、現在は地球から約240億km離れた宇宙空間を飛行中。そこから今も信号を送り続けています。

この長い期間、ボイジャー1号を動かしているのは原子力電池です。放射性物質が自ら崩壊していくときに出すエネルギーで電力を生み出しているので、寿命はおおよそ100年といわれています。今、半導体に人工ダイヤモンドを使う原子力電池の研究が進んでいるのですが、それを実現する技術が日本発。実は、原子力電池の分野は日本が世界をリードしているんですね。

日本原子力研究開発機構は、2月に放射性物質で発電する2種類の素子を開発したと発表。熱と放射線を電気に変換するというもので、放射性廃棄物や使用済みの核燃料を再利用することができるかもしれず、2025年に実証実験を予定しています。

原子力電池は1960年ごろから、宇宙探査機や心臓のペースメーカーなどに使われてきました。これまでは熱のみで発電するものが主流でした。衛星通信くらいの少ない電力でしたら、崩壊熱という従来の方式でも賄えましたが、放射線も利用する新しい方式は、出力の向上が見込めるとのこと。実証実験が成功すれば、これは大きな前進になります。

2つの核兵器が落とされ、東日本大震災では原発事故が起こり、原子力の犠牲になってきた日本だからこそ、核廃棄物を有効なエネルギーに変えていくことができれば希望につながります。脱炭素も叶いますし、核廃棄物の処理には頭を抱えていたので、ぜひとも実現を願いたいところです。2028年にはスマートフォンを充電できる出力ワット級の発電、2035年にはその1000倍程度のキロワット級の発電を目指しています。次世代電池の本命になるかどうか、勝負どころです。

社会のじかん 堀潤

ほり・じゅん ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX月~金曜7:00~8:30)が放送中。

※『anan』2024年5月29号より。写真・小笠原真紀 イラスト・五月女ケイ子 文・黒瀬朋子

(by anan編集部)

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