佐川光晴さんの『あけくれの少女』は、主人公の真記が、小さな運送会社を営む父とその経理を担う母、運動神経のいい8つ下の弟に囲まれて暮らす、広島・尾道での少女時代から幕を開ける。英語が好きで英語教師を目指し、両親から上京の許しを得るためにある計略に出た高校時代までを描いた「第一章 尾道スクール・デイズ」、進学し、中華料理店や観光通訳のアルバイトなどで居場所とお金を得て楽しんでいた大学生活から心機一転を迫られる「第二章 飯田橋キャンパス・ライフ」…と時系列で進んでいく4つの章からなる。真記の明るさやたくましさ、周囲の人々の温かさ、運を引き寄せる力は朝ドラを思わせ、読むとエネルギーチャージできそうな一冊だ。

禍福は糾(あざな)える縄の如し。ヒロインの約20年の成長の軌跡が、爽やかだ。

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「いま親ガチャみたいな言い方がよくされて、親というものが簡単に否定されますよね。でも、それぞれが性分や価値観など親の代から引き継いでいる何かしらってわりにあると思っているんですね。それがどういうふうに真記の身になっていくのかをきちんと描きたくて、満州に駐屯していた祖父の終戦時のエピソードや、両親の駆け落ち話なども書いています。真記に有形無形に受け継がれているのが伝わるかなと」

確かにダメなところもある父だが、彼が真記に伝えていく“教え”には人を鼓舞する力がある。その影響を受けたヒロインの生き方は、佐川さん自身の自立心や冒険を求める気持ちとも多分に重なる。研修基金を得て南米に遊学したり、いきなり食肉加工の現場で働くことを選んだり、その傍らに小説を書き始めたりと、なかなか仰天モノの遍歴である。

「故人で俳優の児玉清さんと対談したとき『マルクスをかじったりすると、インテリっていうのは肉体労働してみようなんてちょっと思うものなんだ。でも、実際にやるやつなんてまずいないし、まして10年も続けるやつなんて見たことも聞いたこともない』と言われました(笑)」

誰かに認められるという喜びをたくさん経験し、自信と勇気にして成長した真記。

「両親や友人や周囲の人々との関係の中で育んだ、誠実さや熱意、知恵や工夫。それは時代が変わっても武器になるんじゃないでしょうか」

〈どこで、どうやって生きていくのか、うちは自分で決めたい〉。12歳の真記が誓った未来を見届けて。

『あけくれの少女』 物語の舞台は、主に昭和末期から平成中期まで。バブルの首都ではなく、当時の地方の堅実な空気も織り込んで描かれているのが興味深い。集英社 1980円

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さがわ・みつはる 作家。1965年、東京都生まれ。2000年、「生活の設計」で新潮新人賞を受賞しデビュー。著書に「おれのおばさん」シリーズ、『牛を屠る』ほか。

※『anan』2024年2月21日号より。写真・土佐麻理子(佐川さん) 中島慶子(本) 取材、文・三浦天紗子

(by anan編集部)

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