「怖いもの見たさ」を満たす古今東西のポスターの祭典。
「ポスターは映画の顔。どういう作品かを伝える役割と同時に、宣伝媒体としての表現も楽しみたいところ。恐怖映画の場合、いかにもおどろおどろしい惹句も魅力の一つです」
と国立映画アーカイブ・主任研究員の岡田秀則さん。恐怖映画は映画の発展と歩みを同じくしながらも、「人を怖がらせる」ことに特化し、花開いたジャンル。エポックメイキングな作品がいくつもあり、それには必ず印象的なポスターがあると言っていいほど。例えば、動物パニック映画の代表作『ジョーズ』。
「海を泳ぐ人の真下に迫るサメを描いた有名な一枚。これを見ただけで映画を観たような気分になれます」
と特定研究員の藤原征生さん。
会場には1910年代から現代までの約120点を展示。グロテスクな外見の「怪人・怪物」が登場する古典に始まり、内面からわき起こる恐怖を描くサイコホラー、動物や未知なるものに襲われるパニック映画、流血描写など残酷表現を追求したスプラッターへと時代を追って展示。
また「日本の恐怖映画」と題して、日本独自の進化も紹介。江戸時代の怪談を映像化する流れや、特撮を駆使したSFホラー。横溝正史、江戸川乱歩原作のミステリー映画の隆盛を経て世界に知られるJホラーへと発展していく歩みを見ることができる。それにしても「恐怖映画」はなぜこれほど人を惹きつける?
「『見たくないけれど見たくなる』という人間の根源的な欲望を、ダイレクトに満たしてくれるからではないでしょうか」(藤原さん)
ホラーは苦手という人も、人間の想像力が生み出した多様な「恐怖」をポスターから覗き見してみては?
怪談からJホラーまで。
「貴重な戦前のポスター。化け猫と化け猫役の女優のポーズなど、絵力を楽しんで」(藤原さん)
『怪猫赤壁大明神』(1938年、森一生監督) 国立映画アーカイブ所蔵
怖く哀しき怪人・怪物の登場。
怪人が真っ赤な衣装で登場する場面を描く。2m近くあるサイズが圧巻の100年近く前のポスター。「ぜひ現物を見てください」(岡田さん)
『オペラの怪人』(1925年、日本公開同年、ルパート・ジュリアン監督) 国立映画アーカイブ所蔵
心の闇と狂気を描く、サイコホラー。
《サイコ‐異常心理‐》と補足入り。初めて聞く人が多かったせい? 監督自身が登場し《物語の秘密をお友達に話さないで下さい》とお願いも。
『サイコ』(1960年、日本公開同年、アルフレッド・ヒッチコック監督) 国立映画アーカイブ所蔵
超常現象に震撼。オカルト映画。
暗闇にぼうっと浮かび上がる車のヘッドライト。「おどろおどろしさより静謐な雰囲気がかえって気味の悪さを感じさせます」(藤原さん)
『クリスティーン』(1983年、日本公開1984年、ジョン・カーペンター監督) 国立映画アーカイブ所蔵
ジョーズ襲来。広がるパニック。
「簡にして要。これを見ただけでどんな映画かわかります。これ以上何も足せない、何も引けない、非常にすばらしいビジュアル」(藤原さん)
『ジョーズ』(1975年、日本公開同年、スティーヴン・スピルバーグ監督) 国立映画アーカイブ所蔵
「ポスターでみる映画史 Part 4 恐怖映画の世界」 国立映画アーカイブ 展示室(7階) 東京都中央区京橋3‐7‐6 開催中~2023年3月26日(日)11時~18時30分(1/27、2/24は~20時。入室は閉室の30分前まで) 月曜、12/27~1/3休 一般250円ほか TEL:050・5541・8600(ハローダイヤル)
※『anan』2022年12月28日‐2023年1月4日合併号より。取材、文・松本あかね
(by anan編集部)