“やらないこと”リストを作るべし! 脳科学者が教える、脳の上手な使い方12のテク

2022.9.22
ビジネスや日常生活など、あらゆる場面で自分の能力や可能性を最大限に発揮したいと誰しもが思うもの。そこで脳科学に基づき、グッドパフォーマンスを保つために知っておきたい、“脳の上手な使い方”を脳科学者・中野信子さんに教わった。

脳の最適化(チューニング)、12のテクニック

今の自分の生活に無理なく取り入れられそうなものを選択して実践してみて。そうすれば自分の状態に合わせて、脳のグッドパフォーマンスをキープすることができるはず。

1、もやもやする気持ちや不安を、自分を成長させるエネルギーに変えよう。

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SNSのキラキラ投稿にもやもやしたり、苦手な人と良好な関係を築けるか不安になったり…。そういう嫌な気持ちは逆に利用してみる。「人には生まれつき、危機を避けるためのアラートとして、嫌な気持ちを感じさせる仕組みが備わっています。しかしそれも大切な感情の一つなので、せっかくなら自分の得になるように利用しましょう。妬みも脳の活動の一つですし、自分を成長させるためにあるもの。新しいことに挑戦する原動力にいかに転嫁するかが大事です。不安も打ち消さずセンサーとして上手く働かせてみて。違和感を覚えながらも適度な距離感で付き合っていける基盤を作っておくと、人間関係の繋ぎ方が上手くなり、一生モノのスキルとして役立てられます」

2、まったく新しいアイデアは存在しない。過去の歴史から学んでリサイクルしよう。

「驚かせるかもしれませんが、実はまったく新しいアイデアはこの世には存在しません。どんなに新しい発見だと思ったことも、世界中に人は80億人もいるので、既に誰かが同じことを考えていると思ったほうがいいです」。でも、新しいアイデアが思い浮かばないと思っても、がっかりする必要はない。「人の歴史は明文化されてからかなりの蓄積があるので、その中を探せば、過去何億という人の脳が考えた膨大な知識の塊があります。新しいアイデアがひらめかなくても、昔の人が思いついたアイデアを今の時代に蘇らせ、目の前の問題と結び付けてアレンジするだけでも、斬新な提案になります。脳は、何かを模倣することで新しいことを身につけられます」

3、期限内に目標を達成するには、やらないことリストを作ろう。

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「脳には、一時的に情報を蓄積しておける『ワーキングメモリ』機能が備わっているのですが、容量に限りがあるので、そこにやることをあれもこれも置いておくと、本当に大事な情報が次々こぼれていきます。また、本当にやらなければいけないことは心理的負荷が高く、やり切ったという報酬を得るために、脳は負荷が低いものから始めようとします。そうならないために、できるだけやることの数を減らして、たとえば『いついつまで掃除はしない』『読書もしたいけど来週まで我慢する』など、やらないことリストを作りましょう」。ワーキングメモリは、今やらなきゃいけないことを効率よく進めるために大事な脳の作業台。いつもキレイにしておきたい。

4、アイデアが思い浮かんだら、実行する。とにかくまずは口に出してみよう。

パッとひらめいたアイデアは、アウトプットしないと意味がないので、実行力も大きなカギとなる。「何の発言も実行もしなかったら、結局何のアイデアも生み出していないことになります。アイデアマンか否かの分かれ道は、自分が思いついたアイデアを信じ、実際に行動を起こすかどうかにかかっています。ダメ元でもいいので、会議や打ち合わせの席などでまずは口に出してみることが大切。そこから発見や進展があり、アイデアがさらに広がるかもしれません。心のブレーキを外して実行に移すには、自分を客観視(メタ認知)することです」。不安や葛藤を取り除き、自分がより良い結果を残すにはどうしたらいいかが客観的に判断できれば、行動に移せるようになるはず。

5、ベストパフォーマンスを発揮するには、適度なストレスを自分にかけてみよう。

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ストレスは悪いものと思っている人が多いが、実は一概にそうともいえない。「心理学に『ヤーキーズ・ドッドソンの法則』という基本法則があり、これは適度なストレスが学習パフォーマンスを最高レベルに高めてくれるというもの。ある程度のプレッシャーにさらされたほうが、効率よく、的確に仕事ができるといわれています。みなさんも大事なプレゼンの前に、ものすごい集中力で仕事を進めることができた経験などをお持ちではないですか? ストレスは人間に必要なもの。だから自分がどれくらいの負荷や緊張感があったらいちばんやる気が出るかを知っておきましょう」。ベストパフォーマンスが出せる水準が分かれば、いざというときに最大限の力を発揮できる!

6、積極的にライバルを見つけよう。ライバルの存在が自分を高めてくれる。

適度なストレスと同様に、脳を活性化させるためにはライバルの存在も欠かせない。「脳にはすぐに休もうとする性質があり、休ませすぎると働きが悪くなり、戦えない脳になります。しかし職場や仲間など近くにライバルがいると、『ノルアドレナリン』という戦うためのホルモンが分泌され、やる気を出しやすい状態に持っていけるのです。だから、一緒に切磋琢磨したいと思える相手を見つけることがポイントになります。お互いの足を引っ張り合うのではなく、むしろ相手の凄さを認めた上で、良い部分に目をつけてどんどん吸収していく。そしてライバルと張り合いながら、いつも自分が努力できる状態に持っていくと、脳がよく働くようになります」

7、全然、やる気が起きない。そんなときは、とにかくやり始めてみる。

やることはたくさんあるのに、ベッドから抜け出せなかったり、デスクに座ったけれど一向に仕事する気にならなかった経験は、誰しもあるはず。「人間ですから、やる気が起こらないこともあります。それは何か新しいことをするときに、脳は相当なエネルギーを必要とするからです。脳が、作業を始めるより前にやる気になってくれることはないんですね。だから、なんとかやり始めるのが大事。逆に一度始めてしまえば、続けようとする力が働きます」。そのために自分ならではの“開始のルール”を作ってみるとよいそう。「たとえば、この椅子に座ったら仕事を始めるなどと決めると、『これから仕事が始まるぞ』と脳に伝わって、仕事モードに入ってくれます」

8、集中力をつける、という発想を捨てる。集中しやすい環境を整えよう。

「なかなか仕事に集中できないと悩むこともあると思いますが、その状態は脳科学的には至って普通のこと。脳はさまざまな異常を検知するために1つのことに集中しにくいシステムになっているので、集中力が長続きしないようにタイマーがついていると思っていたほうがラクです」。集中力をつけるというよりも、脳が集中しやすい環境を整えてあげるほうが、効率が良いそう。「私たちはいろいろなことに注意が向くようにできているので、なるべく聴覚や視覚を刺激するものを遮断できる環境を作りましょう。特に音に敏感に反応してしまい、いちばんディスターブされるのは人の声です。波の音など環境音を流してマスクすると、作業効率が上がるという研究もあります」

9、作業を中断するときは、あえてキリの悪い中途半端なところでやめる。

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「一区切りついたから休憩しよう」「今日はここまで仕事を終わらせよう」と、普通はキリがいいところまで作業を進めようと思いがち。「しかし、キリのいいところでやめてしまうと、人は満足してしまい作業に戻りづらくなるんです。一度やめてしまうと、また始めるのに大きな力が必要になります。だからあえてキリの悪い中途半端なところでやめてみることをおすすめします。パソコンのスリープ状態のように、中断中も頭の片隅で作業の続きを無意識に考えてしまい、早く作業に戻りたくなる状態を作ってあげましょう。この、やり切ったことより達成できていないことのほうが強い印象として残る現象を『ツァイガルニク効果』と呼びます」

10、徹夜で一夜漬けは忘れやすい。大事な試験の前日は、しっかり寝よう。

「脳の仕組みからしても、一夜漬けの覚え方は効率が悪いんです。徹夜で試験に挑んでも眠さで頭がボーッとして、パフォーマンスを発揮しにくくなります。実は、記憶の定着は寝ている間に起こります。徹夜はその記憶の定着のプロセスをすっ飛ばすことになるのでとてももったいない」。それでも時間が限られていて、一夜漬けをしないといけない状況になったらどうすべきか。「少し時間を前倒しして、夜までに一夜漬け用の資料を作ります。作った時点で知識は結構頭に入っているので、とりあえず作り終えたら夜は寝ます。そして翌朝、早めに起きて復習します。寝たことで定着した記憶がここでさらに強化されるので、徹夜で挑むよりも良い点数が取れると思います」

11、目標はイメージしやすい身近なものに。そうすれば、三日坊主で終わらない。

ダイエット、語学や資格の勉強…、始めてみたはいいけれど三日坊主で終わってしまうことはよくある。「それは目標のイメージが具体的ではないからなんですね。一時的な強い気持ちだけが動機になっていると長続きしません。たとえば英語を話せるようになりたいなら、どの程度、誰とどんな会話をしたいのか、そこまで具体的に考えておかないと脳はすぐに怠けて挫折します。だから目標を具体的にして、達成までの道筋をしっかり立てましょう。それでも三日坊主で終わってしまうなら、そんなに本気じゃなかったということ。でも、三日坊主も10回やれば1か月やったことになるので、間隔が空いたとしても積み上げていくことで、目標に近づくことはできます」

12、自分が頑張った努力の記録を付けよう。見える化すれば、自信が湧いてくる。

パフォーマンスやモチベーションのキープのために、最後に紹介したいのが“努力の記録”を付けること。「自分がやってきたことって、意外と覚えていないもの。だから努力の記録を付けることをおすすめします。『今までこういうことをやってきたじゃないか』『こういうこともできたじゃないか』ということを書き出して可視化してあげることで、頑張ってきたことを客観的に見つめられるようになります。見返すことで『自分はこんなにやってきた!』と励みにもなり、脳も常に目標の達成を意識するように。挫折しそうになったときも冷静に自分と向き合うことができます。それをベースに次に繋げていくことで、新しいことにもチャレンジできるようになります」

中野信子さん 脳科学者。脳科学の視点から人間社会で起こりうる問題や人物を読み解く語り口に定評がある。『世界の「頭がいい人」がやっていることを1冊にまとめてみた』(アスコム)など、著書も多数。

※『anan』2022年9月28日号より。イラスト・加納徳博 取材、文・鈴木恵美

(by anan編集部)