なぜ登らずにいられないのか。ボルダリングの奥深き世界を描く、鬼頭莫宏さんによるコミック『のボルダ』。
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マンガ家という職業柄、自分が日常で関わりを持ったものは何であれ、ネタになる可能性を探ってしまうという、鬼頭莫宏さん。壁に付いた突起物を使って黙々と登っていくボルダリングも、そのひとつだった。

「右手が病気で動きにくくなってしまい、そのリハビリとして3年半ほど前に始めたのですが、やってみたら非常に面白くて。でもマンガとしては扱いづらい題材なので、描くのは無理だろうと思っていました」

なぜ扱いづらいのか、詳しくは本作の“第0話”を読んでいただければわかるのだが、スポーツマンガの醍醐味といえる勝負の駆け引きを描きにくい点が大きいようだ。たしかに壁をよじ登る姿は、いかにも自分との闘いといった感じだし、トレーニングも地味そう……。しかしそういった特性を逆手に取って、一見単純なこのスポーツに、なぜ多くの人が夢中になっているのか、魅力をわかりやすく紹介してくれている。

「スポーツってこういうもんだよね、と抱く一般的なイメージとのズレを見せていくのが、入り口としてはいいかなと思ったんです」

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まずもって、主人公・森下藤子のおとなしそうな雰囲気に、意表を突かれてしまう。ボルダリング歴1年の彼女は、23年間これといった趣味もなく、体を動かすのもどちらかというと億劫なタイプ。そんな彼女がなぜ、ボルダリングを「合う」と感じるのか。「パリピなスポーツのイメージもあるけれど、実際は真逆な人も多い」とか「出来る自分ではなく、出来ない自分を楽しむ」「登りの強い人は静か」など、独特の視点にいちいち頷いてしまう。

「この辺りはほぼ実体験というか、自分の感想を素直にマンガにしている感じですね」

そして意外だが子どもから大人まで、ジムに来る人の年齢や性別も幅広い。基本的には各自のペースで淡々と課題をこなしていくのだが、時折ほかの人が登る姿を見て、「ガンバ!」と声が出てしまうような、緩やかなつながりもいい。同じジムに通う高校生の爽やかな恋愛模様が描かれたかと思えば、ダイエット効果にまで話題は広がり、1巻を読んだだけでも楽しいことずくめなのだが、意外な“欠点”もあるという。

「パフォーマンスが上がってくると、みんなやりすぎちゃうんですよ。次の一手が取れないと、一日中そればかり考えて、体が痛いのに休まずジムに行き、故障してしまうことが多い。魅力と表裏一体ではあるんですけど、今後はそういった面もネタにしていきたいと思っています」

『のボルダ』1 2日に一回ボルダリングジムに通う、23歳、会社員の森下藤子。シンプルで奥深いこのスポーツの魅力とは。本作を描くに至った経緯を綴った、第0話も収録。新潮社 682円 ©鬼頭莫宏/新潮社

きとう・もひろ マンガ家。主な作品に『なるたる』『ぼくらの』『のりりん』など。直近の『能力 主人公補正』『ヨリシロトランク』では原作を担当した。

※『anan』2022年3月9日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子

(by anan編集部)

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