ヴィデオ・アートの先駆者と呼ばれた女性の視点に迫る。
展覧会は時系列に展開する。新潟での生い立ちに始まり上京、渡米、前衛芸術家集団「フルクサス」での活動、ヴィデオ・アートへの傾倒…。なかでも見どころはフィギュアスケート選手・伊藤みどりをモデルにした《スケート選手》や現代美術家であった夫ナムジュン・パイクの故郷の墓をモチーフにした《韓国の墓》など、日本初公開の作品たち。様々な作家と交流した写真や手紙などの資料も初お披露目となる。また渡米後の「フルクサス」での活動や、実験的音楽集団「ソニック・アーツ・ユニオン」との関わりなど、これまで知られてこなかった交友関係にもフォーカス。さらに見逃せないのはマルセル・デュシャンとの出会いから誕生した作品「デュシャンピアナ」シリーズを集めた部屋。デュシャンへの敬意と、その想いを糧に新境地を開拓しようとする久保田の挑戦を、肌で感じることができる。
晩年は脳梗塞で下半身不随となった夫をテーマに作品を生み出した。人との関わりが創作へと繋がってきた彼女の映像からは、その視線の奥にあったものを感じられるはずだ。
色鮮やかな日本初公開作品
《スケート選手》1991‐92年 久保田成子ヴィデオ・アート財団蔵(新潟県立近代美術館での展示風景、2021年)撮影:吉原悠博
1992年のアルベールビル五輪で銀メダルを獲得した伊藤みどりがモデルの作品《スケート選手》。回転するスケーターに向けて投影される映像がリンク上の鏡に反射し、色とりどりの光を放つ。
《韓国の墓》1993年 久保田成子ヴィデオ・アート財団蔵(新潟県立近代美術館での展示風景、2021年)撮影:吉原悠博
韓国の墳墓のフォルムを模した半球形の彫刻の上にちりばめられたモニターから映像が流れる。
マルセル・デュシャンへの憧れ
《デュシャンピアナ:階段を降りる裸体》1975‐76/83年 富山県美術館蔵(新潟県立近代美術館での展示風景、2021年)撮影:吉原悠博
《デュシャンピアナ:自転車の車輪1、2、3》と《三つの山》の展示風景(原美術館、1992年) 撮影:内田芳孝 Courtesy of Shigeko Kubota Video Art Foundation, ©Estate of Shigeko Kubota
デュシャンとの出会いから誕生した「デュシャンピアナ」シリーズ。彼の絵画を映像として再解釈した《デュシャンピアナ:階段を降りる裸体》(上)や、彼の最初のレディ・メイド作品として知られる《自転車の車輪》を引用した《デュシャンピアナ:自転車の車輪1、2、3》(下)は、今では久保田の代表作になった。
《メタ・マルセル:窓(花)》(部分)1976‐77/83年 Photo by Peter Moore, Courtesy of Shigeko Kubota Video Art Foundation, ©Estate of Shigeko Kubota
ヴィデオ彫刻の拡張
《ナイアガラの滝》1985/2021年 久保田成子ヴィデオ・アート財団蔵(新潟県立近代美術館での展示風景、2021年)撮影:吉原悠博
《河》1979‐81年 Photo by Peter Moore, Courtesy of Shigeko Kubota Video Art Foundation, ©Estate of Shigeko Kubota
大小10台のモニターが組み込まれた構造物の前にシャワーが置かれた《ナイアガラの滝》(上)や、3台のモニターと揺れ動く水が入ったステンレスの水槽の作品《河》(下)など、1980年頃から水やモーター、プロジェクションによる動きのある作品が登場した。
『Viva Video! 久保田成子展』 東京都現代美術館 企画展示室 3F 東京都江東区三好4‐1‐1 開催中~2022年2月23日(水)10時~18時(入場は閉館の30分前まで) 月曜(1/10、2/21は開館)、12/28~1/1、1/11休 一般1400円ほか TEL:050・5541・8600(ハローダイヤル)
※『anan』2021年11月24日号より。文・山田貴美子
(by anan編集部)